2014/12/14

旅はときどき奇妙な匂いがする: アジア沈殿旅日記

旅はときどき奇妙な匂いがする: アジア沈殿旅日記 (単行本)
宮田 珠己
筑摩書房
売り上げランキング: 2,900
■宮田珠己
宮田大兄の新刊である。
手軽な近場の書店には無かったので大きい書店に行って買いもとめた。
アマゾンの商品紹介には
サラリーマン人生を棒に振って旅を選んだ男が再びアジアを放浪する。それでも私は旅をしたい。チカラ入りまくりの脱力系旅エッセイ。
と書いてあって、本の帯には「『旅の理不尽』以後、ふたたびアジアへ!」と書いてあって、おおいに期待をたかぶらせられたのだが、結論から云うと、これらの文言から想定したものと実際に読んでの印象はかなり、大きく違うものであった。

というか、いま引用して思ったけど【サラリーマン人生を棒に振って】ってなんなんだよなあ(怒)。【人生を棒に振る】ってどういう意味か知ってんのか。【サラリーマン人生を棒に振る】って【サラリーマン人生】ってそんな後生大事に抱えるようなものか、っていうか少なくとも宮田珠己と云うひとに限って【サラリーマン人生を棒に振る】って表現はすんごい違和感があるよなあ~。宮田大兄はサラリーマン人生もきちんと糧にして、そのうえで「いま」があるんだって愛読者としては感じているぞ!

そんでもって、本書を読み進めば一目瞭然なことに、これは断じて「脱力系旅エッセイ」では無いし、『旅の理不尽』とは最初のスタンスからして全然別物なのであった。

最初の章「Ⅰ 台湾」を読んでいるときにあまりにも宮田大兄のテンションが低く、暗いので心配になったくらいだ。鬱、ってよく知らないけど鬱々とした文章である。
「はじめに」で足が原因不明の痛みに襲われそれが慢性的に継続している、そこから脱却するために「仕事」ではなく「休暇旅行」に行かんとする、という意志が表明されているんだけど、んーでも結局その旅について書いてあるのがこの本なわけで、ってことは結果的に仕事になってるわけで、そのへんはどうなんだろう?とも思ったんだけど。
なんか、旅行の本なのに、旅先の描写とかが少なくて、自分の内面にどんどん入り込んでいってるというか、思考描写にガンジガラメになってる感じで、全然リラックスできていない感じだし、大丈夫なんだろうか。
よくわからないので、「Ⅰ」を読み終わったくらいで「おわりに」を先に読んでみた。すると、こう書いてあった。

旅についての本を書いてみたいと、前々から考えていた。旅の本はいくらもあるけれど、旅についての本、つまり、旅先ではなく、旅そのものについて書かれた本…(中略)。 
の中にいるときの日常とは異なる感覚、興奮と不安とときに倦怠が同居し、意識がいつもと違う位相で覚醒しているような旅の時間。私はどうもあの非日常感に惹かれて旅を続けているように思うのだ。だから、それをそのまま描写してみたかった。

……成程。
 つまり「目的通り」なわけね、この書き方で。
納得できたので、Ⅱ以降もそのつもりで読むことができた。
つまり本書は紀行文ではなくて、旅に行って書いてある本だけれども、そのときの見聞録じゃなくて、思考過程録というか、そういう本なのだ。「Ⅰ」はなんだか暗い感じがするんだけど「Ⅱ」以降はましになっていく感じなので、安心した。

宮田大兄の「原風景」について書かれていたり、とにかく「考えたこと」が書かれているので、ファンにはなかなか興味深い作品であると思う。
ただ、ちょっと思ったのが、本書で初めて宮田珠己という作家に触れた読者はどうかなあ――ということで、もしそういう方がいたら「ぜひ他の作品も読んでみてね♪」と明るくサワヤカに薦めておきたい。

Ⅰが台湾でⅡはマレーシア、Ⅲはラダック(インド)と海外なのだけど、Ⅳは熊本で、日本だ。なんか日本が来てちょっと気易い感じだ。そして熊本の阿蘇の話から、夏目漱石『草枕』のモデルとなった地に行った話になって、読みながら「おおおおお」と少し興奮した。『草枕』の愛読者なもんで、宮田大兄も漱石の中ではこれが一番好きとか書かれていて嬉しい。
まあでもそもそも「『草枕』のモデルの場所に行ってみたい」と望んだことはわたしはいままでなかったわけで、それは何故かと云うに、あの世界はあの小説の中にしか有り得ない、「非人情」のフィルターを通して書かれた架空の世界だからである。
今回の宮田大兄の文章を読んでいろいろ興味深くはあったが、やはり、その予測を裏付けられた感が強いというか、このひとはやっぱり男性だから那美さんの美女ぶりが気になるんだなとか、そういう感じだった。

本書は「webちくま」に「アジア沈殿旅行記」として2013年4月から2014年3月まで連載されたものに加筆修正したものだそうだ。
謎の足のピリピリした痛みはいまも原因不明のまま続いているということで、人間の体ってどうなってるんだろうなあという不思議な感じである。エンタメノンフ繋がりの高野(秀行)さんも原因不明の腰痛について書いた本があるけど、あれは最後にはなんだか水泳とかで改善されて良かったな、という終わり方だったんだけど。
宮田大兄はいろいろ真面目に考えすぎるから、しんどくなっちゃう面があるんじゃないかと一読者として思わないでもないが、それが足の痛みと関係あるのかどうかは、わからない。
早く治るといいなあ。