2014/12/28

スコーレ№4

スコーレNo.4 (光文社文庫)
宮下 奈都
光文社
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■宮下奈都
これは紙の本(文庫)で読んだ。というか、kindleが届く前に買っていて、いままで寝かしてあったのを今日読んだ。
そもそも単行本が出た2007年に北上(次郎)さんが誉めていたのはずっと覚えていて、でも知らない作家さんだしタイトルが意味わからないし、となんとなく躊躇していた。2014年9月に『本屋さんのアンソロジー』で初めてこのかたの作品を読んで、「スコーレ№4のひとだ、そうかこういう空気を書くひとだったのか、これは是非読まねば」と思った。

意味が分からないと思っていた「スコーレ№4」というタイトルの意味は結局本文を読んでもどこにも説明は無くて、解説(北上次郎だった!まあ当然か)冒頭に至って初めてそのことに触れられているが、これも著者の言葉ではないので確定、では無い。
「スコーレ」はギリシャ語でスクールの語源となった言葉なんだそうで、そしてこの本を開けば目次には№1から4までが章の様に書かれている。

№1で主人公(麻子)は13歳だ。家のこと、家族のこと、何よりいちばん近い妹の七葉のことが描かれる。
読みはじめるやいなや小説にはふたつ種類あるんだったと思い出すことが時々あるんだけれど、これもそういう文章だった。
「ストーリー」に重点が置かれていてそこに力点を置いて読む小説と、その言葉のつらなりの美しさそのものに深い味わいを覚えることが出来る文章そのものが味わい深い小説だ。

この話は麻子が中学から高校、大学生活を経て社会人になり数年を経るまでを描いてあり、一種の「成長小説」だと思う。特に中学時代と、社会人になりたての頃にウエイトを置かれているかな。高校、大学時代はあっさりしすぎというかあっというまに通り過ぎていった感じだ。
最初の章で麻子がどういう性格で、なにをどういうふうに考えているか、家の商売や祖母の大きな影響、語られない祖父の時代のこと、美しい妹との濃密な関係と複雑な心境などがすごく丁寧にゆっくりゆっくり語られて息苦しいくらいだったから、十代の後半から就職までがほぼそれ一色といっていいくらいに、重要事項として書かれたのが従兄との初恋の話で、脳内が恋愛でいっぱいだったということだろうけど、それにしてもあまりにも「受験」とか「友情」とかが無く、しかも中学時代あれほど重きを置かれていた妹や祖母の問題もほとんど触れられなくなったことにちょっと戸惑いを感じた。

そして№3で麻子は就職して社会人になっている。
就職活動についてはほとんど書かれていない。超氷河期だったらこの苦労だけでひとつの長篇になるネタだけど、まあこのひとは優秀だったようでわりとあっさりと希望の会社に就職したようだ。そしてそこで配属された場所でしばし苦労する……けど、持ち前の能力で鮮やかに切り抜けていく。
これは№1を中心に積み上げてきていた彼女の地道な努力と持って生まれたセンスの良さがとてもうまい具合に効いていて、説得力があるのだ。

で、№4での出会い、飛躍。

正直№3まではわりとじわじわとした地味な努力とか内面描写とかそういう世界だったのが、№4でかなりいきなり垢抜ける。ある人物と出会い、ある出来事がきっかけで恋に落ちるわけなんだがその出来事というのがちょっとまあ普通は無い、というくらいにドラマチックでロマンチックでびっくりしてしまった。いきなりどーしたこの小説、なんかのオチがあるのではと疑ってしまったくらいだ。でもそれが「素」なのだった。まあ、いままで地道に築き上げてきた下地があるからここでぱあっとこれくらいのデカい花火打ち上げても全体のバランスとしてはギリギリセーフ、だと思うけどねえ、フィクションだしねえ、夢は大事だよね、華やかさだってあって良いよね、お話だもん。と内心言い訳(誰に?)しながら読んだ。とっても素敵な展開なので、「そりゃ惚れるわ」と思うし、面白く読んだんだけど、それは小説だからで、現実的かと問われたら「ごく普通のひとと思っていた隣人がいきなり映画のスクリーンで主役になって現れた」みたいな気もしたのは確かだ。良いんだけどね、面白かったけどね。

でもいきなり仕事の出張先(しかも海外)でそれまで付き合ってるわけでも告白があったわけでもなんにもない、ただの同僚からいきなり部屋に誘われたらそれはどうなんだろう……それこそ七葉のような華やかな女の子にとっては珍しくもない日常茶飯事かもしれないけど主人公は麻子なんだけどなあ。そして麻子は天然だからその意味に気付かず忙しいのを理由に断るんだけど……その後日の展開とか、№3までの雰囲気からいきなり箍が緩んでいるというか展開が早くなった気がして、恋愛色がばばばばーっと盛り上がってドラマチックになって、そりゃドキドキしたし面白かったけど、びっくりしたのだった。妹たちの会話で「吊り橋効果」が出てきたのは作者の自虐かと思ったくらいだ。あはは。

この話で主人公が、母親が独身時代は輝いていたけれど結婚・出産のために家庭に入ったことを知らされ否定的にとらえ、それをベースに自身の結婚観を持つシーンがある。かつてわたしもそういう考え方を長く持っていたので共感し、でも同時に実はそうでもないことをいまは知っているので、そうでもないんだけどな、そう単純に決めつけられるものでもないんだけどな、と思いつつ読んでいた。だから、最後のほうで主人公が同じようにそのことに気付く描写が出てきて「そうだよなあ、気付けるような相手を見つけられて良かったなあ」と頷き、ほっとした。

今回は初読みで、読んでいくときはこれがどういうテーマの小説かわからなかったので、妹の七葉のことがずっと絡んで来たり、家の問題が大きくなっていくのかと想像していた。もっと云えば、七葉とあまりにも近すぎ、それがだんだんずれて行ったりすることで問題が起き、重い苦しい展開になるのではないかと恐れながら読んでいた。だからそうじゃないとわかって、ちょっと拍子抜けでないこともない。近いうちに落ち着いて再読し直したい、ゆっくり文章を味わい直したいという感じだ。何気ない風景描写とか、骨董(古道具)屋である家の様子とか、川と町の景色とかがとてもきれいな小説でもあったから。あとそれに、靴のこともね!靴を買いに行きたくなる話でもあるよね、それもちょっと贅沢な良い靴を…。