2014/11/22

あたたかい水の出るところ

あたたかい水の出るところ (光文社文庫)
木地 雅映子
光文社 (2014-11-12)
売り上げランキング: 58,019
■木地雅映子
きじ・かえこさん。
このひとのことを知ったのは『和菓子のアンソロジー』で、それが良かったので他の話も読みたいと思っていた。単行本を見て「あれ、このタイトルどこかで昔見掛けてホラー小説と思いこんでいたような気が…」。温泉で「ガール・ミーツ・ボーイ」とか書いてあるし、うーん別に守備範囲じゃなさそうだけど木地さんの本で読めそうなのってこれくらいなんだよねと保留にしていたら先日タイミングよく文庫化してくれたので「ラッキー」とばかり購入(読み終わってから見たらこれ電子書籍でも同時期に出てたらしい)。

それにしてもこんな話だったとは!
帯とか裏のアラスジに書いてある文言から想像するのとはちょっと違いすぎやしないか!? いやまあ確かにそういう要素もおおいにあるんだけどさ~問題のその原因についてあっさり触れすぎててまさかこんな毒仕込んであるとは……みたいな。

毒親、っていうのか、虐待、でもあると思う、とにかく主人公の柚子の家庭環境がへヴィー過ぎて。
読みはじめはのほほんまったり~とした女子高生のお話で、「まるで川原泉の描く目が線で出来ている女の子みたいだのう~」と呑気に読んでいたのだがそのうちにだんだん家庭の中の家族の異常さがわかってきて、こんなもん途中でやめられますかいな!

笑う大天使(ミカエル) (第1巻) (白泉社文庫)
川原 泉
白泉社
売り上げランキング: 62,665

両親の仲はもう冷え切っていて、母親も仕事とかで家の中のことはあんまりしてなくて、子どもは柚子が次女で、他に容姿は良いけど遊びまくってる短大生の長女と、小さいころから勉強が出来る中学生の妹がいる。母親は昔からこの勉強が出来る三女だけをかまって、その子をいかにいい大学に入れるか、ということを第一目標にしていて、次女である柚子がマイペースなのを良いことに家事労働でこきつかっている。家事をしてあって当たり前で、してなかったら罵詈雑言の嵐という……。姉も三女も同様に次女におんぶにだっこ。父親は家にほとんどいなくてノータッチ。三女はそうやってお姫様扱いで育ったから我儘ほうだいで性格が歪んでしまって、しかも進学してから周囲は出来る子ばかりになってプレッシャーからおかしくなって引きこもりみたいになり、家庭内で暴力をふるうこともしばしば……

読んでいくうちに、柚子は自己防衛の手段としてああいう性格になり、ああいう生き方をせざるを得ないんだな、ということがだんだんわかってくるのである。
柚子は高校を出たら就職し、自立することでなんとか母親と家族から離れようと考えていたがその考えさえも母親の「家事をする人間がいなくなると困る」という身勝手な理由から反対される。それも表向きは「若い女の子が一人暮らしなんて危ないでしょう」というおためごかしによって。しかも「家に給料を入れて妹の進学費用の助けをすべき」とか言うんだからもう開いた口が塞がらない。

柚子、逃げて!

もはや途中から祈るような気持ちで読んでいった。
ので、終盤にかけての展開がどんだけドリーム入っていようが、「そんな都合の良い白馬の王子様が的展開あるかいな」と頭のどっかでツッコミ入ろうが、基本、オールオッケー!

倒れた先の先生や、お風呂屋さんでお馴染みになったご近所の御婦人たち、いろんなひとが助けてくれる環境でほんっとーに良かった。柚子を迎えに行く根性があって養っていく甲斐性のある、しかも恋愛感情もばっちりの素敵なオノコが表れて本当にめでたいと思った。

この話は本当にお風呂とか温泉の描写が気持ちよさそうで、温泉とかサウナとかへの憧憬と称賛にあふれていて、そういう全体に漂うあったかい「お湯」が、そしてそれを愛する柚子や周囲のひとびとのふんわりした人情がなければ、とてもじゃないけど小説として読んでいられないと思う、ほんとよくまあこんな危ういものを書いたなあ、と衝撃だ。あと、ちょっとSFとかファンタジー入っている箇所もあって、幽体離脱とかこんなふうに扱っちゃう!?ってびっくりしたり。

本書は恋愛小説としても読めるみたいだけど、毒母・毒家族の緻密な書き込みに比べるとどこもその、あまりにもキラキラふってわいた好条件の男子すぎてなんだかそのへんはのめり込めなかった。まあそれは読み手によって分かれる、かな。
あのお母さんや妹が己の間違いに気付くときは来るのか疑問だけど、お願いだから柚子にこれ以上迷惑かけないでもらいたいもんだね!

HNK-FMでラジオドラマ化するらしいけど……どこまで忠実に再現するんだろう。こんなの夜中に聴いたら眠れなくなりそうだよー。