2014/10/14

丹生都比売 梨木香歩作品集

丹生都比売 梨木香歩作品集
梨木 香歩
新潮社
売り上げランキング: 1,752

■梨木香歩
この書籍の情報を知った時、『丹生都比売』は既に原生林から1冊の単行本として出ている作品だから、それを『梨木香歩作品集』として出す、ということは、以降も続刊がある全集みたいなものの1巻目としての出版なのかと思った。装丁も(パソコン上では)それっぽく見えたし。
ファンサイトで「丹生都比売」以外の作品も収録されると知り、それでも全集の1巻という印象は消えなくて(だって分厚さはわからなかったから)、それで先日実際に書店で実物を見たら、全然全集じゃなかったのだった。250頁くらいのごくふつうの単行本。目次で確認すると、9つの作品が収録されている。装丁も、帯に鳥の絵があったりして、シンプルだけどとても美しい本だ。

というわけで買い求めて家でまず最初に「あとがき」があったのでそれに目を通したら、そのへんの事情が書いてあり、つまり原生林の『丹生都比売』は単行本にするために少し嵩増ししたものだったので、それを原点のすっきりした形に戻したものが今回の「丹生都比売」なんだそうだ。(しかし読了後、あらためて原生林『丹生都比売』をものすごーく久しぶりに開いて中を確認したら、そんなに長さ自体は変わらなさそうだった。まぁ、原生林のレイアウトがだいぶん底上げしたスタイルだからなあ、児童書だから1ページあたりの文字数を抑えたということなんだろうけど)。

ごちゃごちゃ書いてしまったが、結論からいうと既に持っている「丹生都比売」以外の話もとっても素晴らしかったので、購入しないなんてとんでもない、読めて良かった! というご本だった。
でも全集じゃない、けど、作品集として今後もいろんな媒体に発表した短い作品はこういう形でまとめていただけるのかな、そうだと有難いなあ。

収録作品。長さの目安として目次のページ数、奥付手前の初出も写す。
「月と潮騒」5  「母の友」2008年11月号
「トウネンの耳」13 神奈川県立近代美術館 美術館だより「たいせつな風景」2008年3月
「カコの話」21 朝日新聞夕刊 2005年9月
「本棚にならぶ」39 「しゅっぱんフォーラム」2007年3月号、4月号
「旅行鞄のなかから」51 2006年 未発表
「コート」69 2005年 未発表
「夏の朝」77 「飛ぶ教室」1994年春号
「丹生都比売」127 出版工房原生林(1995年)を改稿
「ハクガン異聞」233 「ミセス」2011年2月号
あとがき250

いちばん感動したのは「夏の朝」、これだけでも本書を買った意味があった。出だしはファンタジーかと思いきや甘い話からずばっと現実のしっかりした目線で切り込んでくる、ずしりとこころに響くテーマを書いてくれる、これぞ梨木香歩に惚れたところだ、という感じ。話の筋も、現象も、すごく好き。ガンダムがまさかこういうふうに扱われるとは!あとこのお母さん、最初は大丈夫かなと不安だったけど、素晴らしい対応をされて、すごい。賢い。
あと「コート」も優しさと厳しさがすごく絶妙のバランスで書かれていて、短い話だけど深みがあって読後もいろいろ考えてしまう。姉妹がいるかたが読むと、また違うのかな。
「本棚にならぶ」はそのシチュエーションというか設定がすごく面白い、SFだよなあ。こわいけど。
「カコの話」は雰囲気や世界の感じがこのなかではいちばん『家守綺譚』に近いかなー。主人公はちょっとイケ好かないと思わないでもないけど、カコが小さい人魚で出てくるのとか、作った池がとっても綺麗でそのなかに奥さんの過去が見えるとか面白い。奥さんのことを「主婦」という呼び名?で書いてあるのとか不思議な感じ、これも主人公の頭の構造がこうなってるからなんだろうなあ、イケ好かんなあ、奥さんはさぞご苦労されたでしょう。
「月と潮騒」は不思議で、はかなくて美しくてとってもきれいな物語。冷蔵庫はどこから来たのかな。どこに行ったのかな。これも好き。
「トウネンの耳」も変わっているけどこういう「感覚の誤作動」って脳のなんかの加減で実際にある、ってどっかで読んだ。「カコの話」とちょっとリンクしているような気もする。
「旅行鞄のなかから」は難しかったというか、こういうふうに絡め取られていく系は静かに不快さが押し寄せてくるような不気味さがある。
「丹生都比売」は『丹生都比売』を昔途中までしか読まずにやめたような気がするのだが、今回のはちゃんと読んで、なんていうか、うーん、持統天皇ってこういうひとだったのか…。というか、その「固有名詞」にとらわれがちだけど、それを無視して考えて、こういう母親と子どもの関係って…とかいろいろ凄すぎて、正直未消化である、自分の中で。
「ハクガン異聞」は日本昔話みたいだ。こういうふうになるなら道に迷うのも大歓迎なんだが。

原生林『丹生都比売』↓。
抹茶色の表紙を開けると深い紅の見返しがあって、とっても美しい装丁。今回改稿された「丹生都比売」とあまり大きく印象は変わらない。同じ目的、テーマの基の改稿だからだろう。

丹生都比売
丹生都比売
posted with amazlet at 14.10.13
梨木 香歩
原生林
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