2014/10/16

戦友の恋 【再読】

戦友の恋 (角川文庫)
戦友の恋 (角川文庫)
posted with amazlet at 14.10.15
大島 真寿美
角川書店(角川グループパブリッシング) (2012-01-25)
売り上げランキング: 144,863

■大島真寿美
この話を読んだのは書評家の北上次郎が大絶賛していて、「編集者と漫画原作者の友情」っていう設定に興味を持ったからなんだけど、しばらくぶりに本棚を眺めて「これ、どういう話だったっけ」と何気なく読みはじめたらものすごく面白くて、翌朝から再読した。

「戦友の恋」「夜中の焼肉」「かわいい娘」「レイン」「すこやかな日々」「遥か」という6つの連作短篇集のようにも読めるかもだけどやはり章と解釈して長篇小説かな。
主人公はアラフォー、独身、職業は漫画原作者の山本佐紀(山本あかねが本名)。彼女の初めての担当編集者でデビューのころから一緒に仕事をしてきた同い年の編集者が石堂玖美子。
これ、この名前ね……書き写してみて改めて思ったんだけど、主人公の名前およびペンネームの凡庸さに対して「石堂玖美子」の絶妙の気合の入れようはなんなんだろう、モデルとか思い入れがありそうな気がするんだけど。だって「山本さん」「佐紀ちゃん」はそこらにいっくらでもいそうだけど「石堂さん」って珍しい苗字だよね、で「久美子」じゃなくて「玖」美子なんだもの。

この小説では始まった段階で玖美子が既に故人である。最初の話で二人のなれそめ(?)やなんやかやが語られ、「夜中の焼肉」は佐紀の元彼で友人になった男性との話、「かわいい娘」は佐紀がよく行くスーパー銭湯で働いている高校を中退したまた十代の女の子の話、……というふうに要は生きている佐紀の生活を中心に描かれており、別に佐紀は始終玖美子のことを思い出し悲嘆に暮れているというわけでもないのだが、でも例えば急遽後任になった若い男性編集者とか、ずっと行きつけのライブバーの経営者との共通の思い出とか、いろんなところに玖美子さんの存在がかつて有り、いまも残っていることは間違いないのだった、それを探しているわけじゃ決してなく、生者の生活というのはもっと些末なことで忙殺されていくのだけれど、でもふとしたときに考えてみずにはおれない、というか。

今回読み返してみてストーリーの展開が面白かったのも勿論なのだけれど、何が面白いって主人公佐紀のキャラクター、性格がすんごい面白くて、変わっていて、好きだ。そして出てくる他のひともかなり個性的で面白くて、そこへの視線のやりかた、人間観察・解釈するさまがまた面白い。
例えば昔付き合っていた男女が焼肉を食べに行って、仕事やめたいと女が云って、男が「じゃあ結婚しようか」と云いだして、女があっさり断ると男が「結婚をしたいという話じゃなかったの?」というその流れとか……。
ありそうありそう! そしてこの「男」に代表される「俗世間の物の味方」のなんとステレオタイプな旧態依然さよ。別にそこを批判するとかそういう空気は全然なくて、さらっとした日常の一コマとして書いてあるだけだから、むしろここだけをクローズアップするのは間違いなのかも知れないけど、でも例えばだ、例えばこういう細かいところに深く深く頷いてしまうナニモノカ――たぶんそれが著者の持ち味であり凄いところ――があるんじゃないかな、と思う。

それにしてもわたしは佐紀さんとそんなに年齢は変わらないんだけど、随分「日常」が違うなあ、というのはすごく感じた。行きつけのライブバーとか……そこのオーナーの女主人との古い馴染みみたいな付き合いだとか……めっちゃ恰好良いなあ、でも自分の人生にはままず性格的に向いてないよなあ、ライブバーに通う時点で苦痛だし。お酒が強くないのもあるけど、朝型人間だし、夜間外に出てると不安になるから。あと、佐紀さんが一人暮らしで自分のためだけの晩ごはんなのに、いくつもおかずを用意して晩酌もして〆にお茶漬けまで食べていることに感心した。わたし一人だったらかなりいい加減な食事になるので……っていうか普段もあまり品数多くないので。大島さん家の食卓がこんな感じなのかな?