2014/09/29

犬は勘定に入れません  あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎【再読】

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
コニー・ウィリス
早川書房
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■コニー・ウィリス 翻訳:大森望
前回読んだのは2004年6月だからほぼ10年ぶり。先日『ボートの三人男』を1週間くらいかけてゆっくり読み終わったところで
週末になったので良い機会だからとそれをオマージュにしている本書を読むことに。分厚いので通勤に持っていく気は無く、土日で読んじゃわなきゃというわけで読みはじめたら記憶に違わずきちんと面白くて、間に家事と昼寝を挟んだりしつつ日曜朝読了(最終の百ページ弱を夜中に読んだら訳が分からなくなったので朝すっきりした頭で読み直した)。
装画は昔から可愛いな~と思っていたけどいま見ると松尾たいこだ。なるほどね!

500頁越えの二段組みなので結構読みではあるんだけど、読みやすいしユーモラスな“どたばたラブコメSF”だから気楽に楽しめる。
タイムトラベルがばんばん出来ちゃう時代がベースなので基本SFなんだけど、主な舞台は『ボートの三人男』の1880年代のロンドン、テムズ河。
他の時代にタイムトラベルすることをこの小説では「降下」と云うとか、短い期間に何回も「降下」すると「タイムラグ(時代差ボケ)」になるというのが基本設定。で、ふつうは狙った時代の狙った場所にほとんど誤差なく降下できるはずなんだけど、過去のモノを現在に持ってきちゃいけないのにそれを破った人間がいたせいで(そもそもネット[この世界のタイムマシン的な入口出口を指す用語]が開かないはずなんだけどそれが何故か開いたせいで)、「齟齬」が生じて来ている、それを正さなくちゃ……というのがこの話の主筋。この設定だけでかなりわくわくする。
主人公は、無茶な上司に何回も降下を強いられたために重度のタイムラグになっちゃった「僕」ことネッド・ヘンリー。無茶苦茶な要求を周囲に撒き散らす横車押しまくりの上司はレイディ・シュラプネル。なかなか強烈なキャラだ。その他もいろいろユニークな登場人物が出てくるが本書にはその一覧が無い、というのは最初にそれわかっちゃうと最初の方の(ここは正しい場所に降下したのか?)というシーンが生きないからだろうなあ。というわけでここでもこれ以上は触れないでおこう。

『ボートの三人男』の時代で、実際に河で彼らと遭遇したりする(ミーハーノリ炸裂!)が、この物語はそれだけがベースではなく、英国黄金期ミステリーおたくの女性が登場し、しょっちゅうクリスティのポアロやセイヤーズのピーター卿のことを引用するのですっごく楽しい。ピーター卿とハリエットのこととか、かなり入れ込んでいる。もちろんホームズも基本だから台詞の引用しちゃったりして、んーこれは、ミステリファンなら誰でも一回はやるよね、「初歩だよ、ワトソン君」ごっごみたいなね。というわけでSFファンも楽しいだろうけれどミステリファンもかなり愉快になっちゃえる要素満載なのだ。
そもそも「なんで齟齬が出るようになっちゃったか?」という謎を解く、という設定がミステリーだしね。ただ、この謎解きは本格そのものというわけにはいかないというか、SF的設定が絡んでいるから自力ではちょっとややこしいかなあ、だいたい「そこから!?」というようなあれだし……。

恋愛要素もあって、主人公のそれもあるし、主人公が齟齬を直すために「この彼と彼女をくっつけるのが正しいはずなのに別なひとと婚約しちゃったよ、なんとかしなくちゃ!」と奮闘するさまとかそのへんのいきさつもわくわく。

ブルドック犬のシリルと猫のプリンセス・アージュマンドがすっごいチャーミング。犬はフォックステリアじゃないんだねー。人間の言葉をけっこう理解していてそれに応える感じとかがめっちゃ可愛いんだよなあ。けっこう傍若無人なんだけど、愛くるしい~。
いまは文庫版(上下巻)が出ている↓