2014/09/27

ボートの三人男 【ものすごく久しぶりの再読】

ボートの三人男 (中公文庫)
ジェローム・K.ジェローム
中央公論新社
売り上げランキング: 519,589

■ジェローム・K・ジェローム 翻訳:丸谷才一
本書は、1889年に書かれた"Three Men in Boat"の翻訳で、昭和44(1969)年に筑摩書房の『世界ユーモア文学全集』のなかの1作として上梓されたものの1976年7月中公文庫版である。
わたしの手元にあるのは1992年6月15日15版。表紙のイラストは白井晟一。

以前に読んだのはたぶん学生時代なので随分昔なのだが、何回も行った蔵書整理でもこれは捨てずにずっと持ってきたのは「これはわたしの好きな北杜夫とかユーモア小説の原点だから」という認識があったからだと思う。繰り返し読む愛読書ではなかったが、手元に置いておきたかった。

今回読んで、ものすごく久しぶりだったのでほぼ初読みと同じなのだけれど、そうすると最初の方は「ああー北さんの原点みたいな感じ」と思い、だんだんと「ああ、宮田珠己とか土屋(賢二)先生とかのユーモアってこういう感じだよなあ」とか思いながら読んだ。

まずボートに乗って旅しようと決めてから準備とかする期間がけっこうあって、準備しつつも触発されて昔あったこととかエピソードが挟まるのでけっこうかかって、旅が始まってもそういう傾向はずっと続くのでなんだか脇道寄り道たっぷりののんびりした旅の感じが非常によく出ている。1889年に書かれた話!だもんね!と思う。河がきれいで、のどかで、牧歌的だ。文明はまだそんなに人類を無機質にしていない。犬も自由に走り回りケンカしている。

ゆっくり少しずつ読んだ。
「自分としては素晴らしい働きをしているのに周囲から客観的にみるとそうではなくて批判される」式の内容をユーモラスに書くというパターンが実に多く、西洋のユーモアの基本はこれなのかなと思う。
1889年というのは元号でいうと明治22年。
この年は、エッフェル塔の落成式が3月にあり、パリ万国博覧会が開催されたという。ウィキペディアで大きな出来事を拾ったらフランスネタになってしまったが、本書の舞台はイギリスのテムズ河である。

病気を書いてある本を読んだら自分は残らず罹患していると思ったり、荷造りは得意だと云って実際はじめたら大騒動だったり、ボートを優雅に漕いでいるつもりがハチャメチャだったり……様式美というのか、ワンパターンなんだけど、でもこれが面白い。大笑いはしないけど、にやり、にやにや、たぶん上手いコメディアンが演じたらかなり笑える芝居になるだろう、時代を超越した原点の笑いだと思う。パイナップルの缶詰を開けようとするドタバタなんてほんとに喜劇そのもので面白い。

井上ひさしによる解説が良くて、とてもわかりやすい。この話は実話が多いというから驚きだ。また本書は最初はユーモア小説として書かれたのではなく、歴史とか地理的な展望書として書かれたらしい。どうりで、ところどころやけに詳しくその地にまつわる歴史的出来事が語られたわけだ。あと、ひょうきんな表現のあいまにものすごく文学的美的な景色の描写があったりしてこの緩急(?)の差はなんだろうと思っていたがそういう事情も関係しているのかな。

この話に出てくるジョージとハリスとぼく(Jという頭文字が終盤会話の中で出てくる)は実在のモデルがいるらしいが、フォックステリアのモンモランシーも同様だそうだ。薬缶との格闘が実話とは……恐れ入ったなあ。いや、本書では「湯わかし」と書いてあるけど。そう、全体的に丸谷才一ならではの邦訳になっていて、それも良い味出してるんだよなあ。
ところでアイリッシュ・シチュー(P202-205)に結局ドブ鼠は入れたのだろうか……文脈からすると肯定的に読めるのだがそれは「まさかそんなことはするわけないでしょ」という共通認識のもとに書かれたジョークだと思いたい、なまじっかこのアイリッシュ・シチューがものすごく美味しそうだから余計に。

最後は家について終わりかなと思っていたらそうじゃなかったのでふーんと思った。イギリスには雨がつきもので、イギリス人はちょっとした雨だったら傘もささないと読んだことがあるけれど、やっぱり雨はきついか、実際。

現在は同じ中公文庫で同じ丸谷才一訳であるが、表紙が和田誠になっているらしい。

ボートの三人男 (中公文庫)
ジェローム・K. ジェローム
中央公論新社
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