2014/08/03

春の庭

春の庭
春の庭
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柴崎 友香
文藝春秋
売り上げランキング: 91

■柴崎友香
第151回芥川賞受賞、のニュースをテレビで観て意外に思った。芥川賞というのは純文学の新人が対象だと思っていたので、柴崎さんを新人とは思っていなかったからだ。

ウィキペディアによれば【「芥川賞は対象となる作家を「無名あるいは新人作家」としており、特に初期には「その作家が新人と言えるかどうか」が選考委員の間でしばしば議論となった。】とあるが、【現在ではデビューして数年経ち、他の文学賞を複数受賞しているような作家が芥川賞を受賞することも珍しくなくなっている。近年ではデビューして10年たち伊藤整文学賞、毎日出版文化賞と権威ある賞を受けていた阿部和重が作家的地位も確立していた2004年下半期に芥川賞を受賞し「複雑な心境。新人に与えられる賞なので、手放しで喜んでいられない」とコメントした。】と続けられており、なるほどなあ、と思った。

さて、『春の庭』である。
とてもきれいな装丁で、加藤愛子(オフィス・キントン)による。カバー写真は米田知子「kimusa26(2009)」で、窓枠が額装のようになっている緑が鮮やか。黒と浅葱色のコントラストが美しい本だ。

柴崎さんは『その街の今は』などが特にそうだったが、ふつうの町の街並みをすごく丁寧に拾って細かく歩く速度で描いていく作家さん、というイメージがあって、本書もその特色がよく表れていた。読んでいてとても気持ちがよくて、いつまでも読んでいたくて、わざとところどころ休憩を入れて、長くその作品世界にいれるようにしたりした。

派手なことはなにも起こらない小説で、人間模様も表面的な近所づきあいの域を出ない。柴崎さんは恋愛をしばしば書くけどこの作品では恋愛もなし。主人公の仕事の様子や職場の風景もほぼ出てこない。出てくるのはいま住んでいるアパートと、そこに住んでいる住人と、隣接している凝ったつくりの一戸建ての家そのものと、そこに住んでいるひとくらい。
この凝ったつくりの一戸建ては昔、写真集の舞台になったことがあり、アパートの住人の女性(西さん)がこの家のファンで、中を見たくてうずうずしている、というのがこの小説の小説らしい点、かもしれない。その写真集のたいとるが「春の庭」と云うのである。
なんとなく、昔話題になった『東京日和』を連想したりしたけど、『東京日和』を読んだことがあるわけではない。ただ、夫婦がその日常をスナップ写真のように撮った本、というので思い出した。
いまその家にはぜんぜん違うひとが住んでいて、中の様子も少しずつ変わっている。東京オリンピックの年に建てられた家というからそれなりの年季が入っている。
この家に住むことになったひとを書いてある小説では全然無くて、そこに憧れているけど住めない(家賃は月30万だそうだ)女性をメインに書いてある小説というわけでも無くて、主人公「太郎」はあくまでもそこから一歩引いた傍観者の立ち位置にいる。
そしてこの小説は三人称だけれどもずっと「太郎」を中心に描かれていたので、そういう話だと思って読んでいたら、いきなり、章代わりでもなんでもなく本当に突然、物語も終盤にさしかかった118頁になって「わたしが」が地の文で出てきたのですごく面食らった。「わたし」って誰!と最初の方に戻ったりした。まあそのまま読んだらすぐに設定から「わたし=太郎の5歳上の姉」だと判明するのだが。

太郎の住むアパートの部屋に姉が訪ねていくシーンからいきなり三人称から「わたし」の一人称に変わるのである。そんでそこからはずっと「わたし」一人称かと思ったらまたしばらくすると三人称に戻るのである。でもあんまりにも地続きで変わるので、もしかしたらこの小説は三人称だと思っていたけれども実は最初から「わたし」の一人称で、だけど「わたし」が省略されていただけなんじゃないか、つまり「わたし」が「太郎」から聞いて書いていった伝聞の話というふうにも読めるんじゃないかと思って、最後まで読んでからもう一度最初っからしばらく読み直してみたが、よくわからなかった。あえて三人称じゃなく一人称だと解釈して読む効果があるのかどうか不明だ。

最後の方でいきなりサスペンス風の展開があって、「えっ残り数ページでこういうの出てきてどうすんの」と思ったらあっさりオチがあって「なーんだ、でもそりゃそうだよな」と思ったり、うーん完全にまったりと弛緩しきって読んでいたら終盤でどきどきさせられちゃった。著者はどういう意図でこういう人称の変化とかスジとかを書いたんだろう。

ググったらこういうインタビュー記事があった。(「本の話」web)

まあなにはともあれ、自分が既読の作家が直木賞を受賞するというのはいままでちょくちょくあったけれども、芥川賞でそれは初めてだったので新鮮だ。
おめでとうございます。