2014/07/17

自己流園芸ベランダ派

自己流園芸ベランダ派 (河出文庫)
いとう せいこう
河出書房新社
売り上げランキング: 5,097

■いとうせいこう
本書は、2004年春から2006年春までの2年間、朝日新聞に週一で連載されたものが毎日新聞社から2006年9月に単行本として上梓されたものの、文庫版である。
アマゾンの商品説明によれば【単行本化にあたり園芸家・柳生真吾氏、詩人・伊藤比呂美氏との語り下ろし対談を収録!】とあるが、文庫版には載っていないので削除されたのらしい。その代わりに、「その後」として短い近況エッセイ2本と、文庫版あとがきと、柳生真吾氏の解説((談)としてあるから編集部がまとめた文章かな?)が載っている。
それにしても初出連載は朝日で単行本は毎日なんだ、最初奥付を見て「え?」って思ったけど本文にもはっきりそう書いてあるから、へえー。そういうこともあるんだなあ。

同著者のやはりベランダ園芸のことだけを書いた名著『ボタニカル・ライフ』をわたしは4回読みこんでいるファンで、本書の存在もググったときに知ってはいた。だが、知った時点で2006年から3年以上過ぎていたので「今更単行本で買うほどじゃないんだよなあ。どっかで文庫化しないのかな~マイナーな内容だから難しいのかな~」とか思いつつ待っていたのだ。まさか2014年7月まで文庫化しないとは。っていうかこれは『想像ラジオ』が大評判でよく売れたことの効果かな、あれ以降いとうさんの本がちょこちょこ復活してるみたいだし。ビバ!(と云いつつ『想像ラジオ』をはじめいとうさんの小説はひとつも読んでないんだけど…)。

新聞連載なので1回の分量はだいたい見開き2頁分。相変わらず興味がある植物があればじゃんじゃん買っておられる模様。『ボタニカル』の途中で浅草のベランダが1つだけのマンションに越されていたけど、さらに浅草のベランダが西東北にあるマンションに越し直しされたとのこと。うわ、ベランダ3つ!すごいなあ、ベランダーのいとうさんにぴったりじゃない。でも南向きがあればもっと良かったろうにね。西とか北じゃなしに。まあ贅沢は言ってられないんでしょうが。
いとうさんは10年以上のベランダ園芸家でらっしゃるから、きっといろんな経験を踏まえた知識があって、植物を育てるのは慣れてるんだろうけどたまに枯れたり花房をうっかり折っちゃったりする、そういうのばっかり書かれるから一瞬「失敗が多いなあ」と錯覚してしまうけど実際はほとんどがすくすくと育ってるんだろうと思う。でもそれじゃエッセイにならないから一生懸命ネタを探してるんだろうな。

解説の柳生さんという園芸家の方が、植物を「上手く育てようとする」ことばかりがクローズアップされて、もてはやされがちだけど、植物と同じ視点で楽しむやり方もあって、そういうスタンスだと「枯らす」のも全然普通にアリなのだ的なことを話されていて、目からウロコだった。うーんそうかー。「上手く育てる」至上主義でスグに本やネットで正しい育て方をマニュアル的に得てそのとおりに育てれば確かに失敗は少なくなり、枯れにくいだろう、でもそうじゃなくて自分で良いと思うやりかたでいろいろ試行錯誤して、「育て方を手探りで探しながら一喜一憂していく」っていう園芸もあるんだってことだよね。うーんなるほどなあ。

まあそれにしても「雑すぎないか」とは時々思わないでもないんだけどね……。
ベランダを見た客人がみんな無言になる、というのも「鬱蒼としていないから」だけじゃない気がするんだよなあ、いまどきの園芸家ってみんなオシャレでレイアウトにも凝ってるのが流行してるから、そういうのを期待されちゃってるんじゃないかな? でもいとうさんはとりあえず「花がたくさん派手に咲いているのが良い」と思う派らしいので、色のバランスとか鉢をアンティークでシックにまとめる、とかしてなさそう。テレビや雑誌で見る園芸家の庭とはだいぶニュアンスが違うんだろうなあ。だからみんな予想外で無言になるんじゃないのかな?

というわけで楽しく読めるけどナチュラルガーデン好きである自分のやりたい園芸とは方向性が違い過ぎるのであんまり参考にはならないのであった。いとうさんが育てている植物で「それ、うちも欲しいなあ」というのもほとんどなかった(ツユクサは良いなあ、と思ったけど。ああいう雑草って園芸店に売ってるものなのかな?)
ベランダーはみんな苦労している、という一文には激しく慰められ、「そうだよね!わかってくださる、さすがいとうさん」と思った。