2014/07/11

ワーカーズ・ダイジェスト

ワーカーズ・ダイジェスト (集英社文庫)
津村 記久子
集英社 (2014-06-25)
売り上げランキング: 8,103

■津村記久子
中篇の表題作と短篇「オノウエさんの不在」を収録。
「ワーカーズ・ダイジェスト」は初出は「小説すばる」2010年9月号~11月号。
津村さんは1978年生まれなので2010年は32歳くらい、この話の主人公たち(ダブル佐藤)も32歳から33歳くらい。この著者はわたしが読んだかぎりでは自分と同じ年のひとの視点で書くことが多いなあ(ちなみに「オノウエさんの不在」の初出は2008年4月号で主人公は27,8歳でちょっと若め)。

帯に「偶然出会った男女は、名字も年齢も誕生日もで同じだった」云々と書いてあったから最初に出会いがあってそのふたりの親しくなっていく過程とかを描いてあるのかなとぼんやり考えたのだが読んでみたらこのふたりは最初のほうで仕事の打ち合わせで会ってそのあと偶然サンマルコでまた会うけどその次に会うのはお話のほぼ最後のほうなのだった。それまでは交互にそれぞれの視点の章があって、仕事・職場・友人の人間関係のうだうだしたメンドクサイややこしいことがリアルな感じで書かれている。
ちなみにサンマルコは大阪などでよく見かけるメジャーなカレー屋なのだがだがわたしは辛いのが苦手なので外食でカレー屋に入らない、パイナップルとかトッピングにあるんだ、いいなあとちょっとグラッときた。あとスパカツがめっちゃ美味しいと書いてあってこれもモデルのお店あるんだろうなあ、どこだろう食べたい!

仕事っていうのはほぼ同時に人間関係をこなす、ということでもあって、たとえば仕事から人間関係をぜんぶ抜き去って、在宅でパソコンに向かって入力するだけで後の諸々にもいっさい対人対応は不要、とかいう「仕事」があったらもんのすごーくストレスがかからないだろうなあ、と思う。昔見たアニメでは未来の社会はみんな在宅で仕事できるからラッシュとかも無いよ、みたいなのをやってたよなあ、でも現実問題在宅だけって無理でしょ、全員が個人でしか仕事しないで会社組織は無いとか考えられないしなあ。
仕事相手の顧客が変だろうが難癖だろうがその対応も含めて仕事なんだから、というのは三十代ともなっていればもう諦念とともにある程度やりくりしていけるのだが、でもまあこんなのばっかりだったらやってられん。

女佐藤・奈加子のほうは仕事のそれに加えて職場の女性社員のひとりから意味不明な理不尽な扱いを受けたり、学生時代の友人のひとりから忠告にかこつけた批判というか攻撃をされたりする。なんなんだろうね、そういうことするひとの精神ってどうなってるんだろうね。心からうざい。結婚にしがみつくあまり旦那に家では気をつかいまくっている反動で会社で(なんでか知らないけど気に食わない相手に)つっかかるとか無視するとかおかしくない?
男佐藤・重信も仕事がらみでいちゃもんをつけられるのだけどどうやら相手は中学時代のクラスメイトらしく、つまり仕事じゃなくて私怨なんだけどこれも原因不明でそれこそ「意味がわからない」。こんな根暗なことする人間の妻というのはたとえ綺麗な戸建ての家に住めて専業主婦になれたとしてもどこか精神的に追い詰められる面があるのか、主人公を家に上げたりしていて、っていうかここではむしろ主人公に「ほいほい女ひとりの(しかもその夫がキ○ガイの厄介者だとわかっている)家に上がり込むなよ! 冤罪かけられたらどうすんの!」とツッコミの嵐だった(脳内で)。

奈加子にも重信にも共通しているのは自分が何か具体的に言ったりしたりして相手を怒らせた、とかいう原因が無くて(というかあるのかもしれないけど書かれていなくて)、一方的に恨まれたり嫌われたりする、のだった。原因がわからないから改善するために謝るなどの対策が取れないのだった。ああストレスが溜まる。

こういう理不尽なヤカラどもにはぜひとも天誅が下って溜飲を下げたい、と思って読んでしまうんだけど、現実がそんなに甘くないように、小説でも別に彼ら彼女らに不都合な展開というのはなんにも起こらない。 
しかしまあ主人公たちはそれぞれ自分の中で感情をうまく処理して、流れに逆らうでもなく流されるだけでもなくうまくバランスを取って毎日生きている。最後のところでふたりが再会するシーンはなんともいい感じでエールを贈りたくなる。「Youつきあっちゃいなよ!」とか。おせっかいだろうけど、うんでも、そうなるといいな。

オノウエさんの不在」では直接いろいろ会社の上司とかから不条理な目に合うのはオノウエさんという主人公の先輩の男性なのだけど、とても世話になったひとなので気になる、くらいのときに同じ気持ちの同僚と、何故かめちゃくちゃこの件に対して前のめりな「しぎ野」という総務の女性社員と関わることになって、という話。オノウエさんが話題の中心なのだがこのひとはとうとう最後まで直接の登場はしなかった。
しぎ野さんは何でこの件にこんなに肩入れするのかなあ、ある意味病的じゃないか、変なひとだなあと思いつつ読んでいって最後のほうでその理由が判明するが何故かちょっとがっかり。恋愛がらみじゃないかとはうすうす感じていたけどなあ……不毛だよなあ。
同僚のシカタが最初はうっとうしい面が強調されていたが段々カワイク思えてきて、主人公が食事に誘った時の反応とかすごく微笑ましかった。

両作品とも大阪の具体的な場所の名前が出てきて、思い浮かべながら読めて面白かった。関西弁がかなり良い味出してる。
それにしても2011年3月単行本刊なのに今回出た2014年6月30日刊の文庫版を読んでいると文中で奈加子がグランフロント大阪で雑貨屋とパン屋を見て回る場面があり、あれ?と思った。グランフロント大阪の開業って2014年だったような?記憶違い?と調べたけどやっぱりそうだ。文庫化にあたって修正とか加筆とかしてるってことなんだろうけど、今度本屋さんに行ってこれの単行本があったら同じ個所がどうなっているか確かめてみたいなあ。
※追記。確認したら、単行本では「戎橋筋商店街」になっていた。ちらっと見ただけなのでうろ覚えだが、北の会社になってから南はあんまり行ってないから久しぶりに、という流れで書かれていた。雑貨屋、パン屋を見るくだりは一緒)。

この作品絡みで津村さんと西(加奈子)さんが対談している記事がネット上にあったのでリンク貼っときます。

とりあえず私がずっと書きたかった働く人の話はこれです、三二歳くらいの働いてる人って、こんなに疲れていて、すごいいろんな脅威にさらされています、ということを書きたかった。
とのこと、そう、日常のささいな言葉や事象の積み重ねがリアルなんだよなあ…。でも楽しいこともあるよ!だからやっていけるんだよね。二十代には見えなかったことが見えてきたり、経験重ねているからこその対応とかで難事を乗り切れたときは嬉しいし。そういう面はこの小説では書かれてないかな。

本作は第28回織田作之助賞受賞作だそうだ。
解説じゃなくて「鑑賞」としてあるんだけど、は、益田ミリ。漫画形式。
装丁はお馴染み・名久井直子。
装画は山城えりか(単行本だと裏表紙に絵の右側があるんだけど文庫なのでそれはなかった。