2014/06/28

つむじ風食堂の夜

つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
吉田 篤弘
筑摩書房
売り上げランキング: 6,010

■吉田篤弘
クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘による小説。単行本が出たのは10年以上前で、気にはなっていたのだけれどなんとなく「クラフト芸術が本職のかただし…」とかスゴク失礼なことをどっかで思っちゃって、他の読みたいものを優先していた。もちろん氏はその後もばんばん小説を発表されており、才能の豊かさを証明されておられる。「料理関係の話をテーマに読んでいるんだったらこれも押さえておかなきゃ」ということでおくればせながら(実際のところ、料理はあんまりメインじゃなかったが…)。

連作短編ぽくもあるけど、まあ、長篇小説か、でも8つの章があるけれどそれぞれが短いのですぐ終わっちゃう感じだ。
読みはじめて「この雰囲気は誰かに似ている…」と思って考えたら小川洋子だった、まあああいうふうなねちっこさ、独特の不気味さ、変態性は無いけれど(すべて小川洋子を評する際に用いる場合は誉め言葉である)。
メルヘン性云うか、架空の町の描写とか登場人物の様子とかがそう思わせるのかなあ。あと皿とかエスプレッソマシーンみたいな小道具への描写の割合が高いこととか(人間の描写よりよっぽどこだわりを感じる)、手だけ手品師で他はふつうの父親、みたいなちょっと風変わりな設定とか。

絵があったら素敵なのになとも思ったが、限定しないほうが想像を自由に広げられるか。奈々津さんの一人芝居の話がもっと広がるかと思ったらそれは無かった、というか全体的に「物語のさわり」的な色合いで、あまり踏み込まない。
外食時のお皿の傷なんて気にしたことないけど、そういうのが目立つというのはお店としてはどうなんだろうとちょっと気になった。
主人公が住むアパートは6階建てプラス屋根裏部屋で、彼はそこに住んでいるのだが、変わっているのが階段の数で、なんと下から屋根裏部屋まで全部で36段しかない、1階あたり6段だという。ってことは3メートルとしても1段50センチ!? だから住人は階段を上がるというより「よじ登る」感じになるんだそうだ。えええ、なんでそんな造り(という設定なの!?)。なにかの伏線かとも思ったんだけど、そうでもないみたい。でも屋根裏部屋って良いよね、設定だけで萌える。ちょっと引っ込んでるから下から見上げても気づかれないとかデティールが凝ってる。
タイトルが「つむじ風食堂の夜」だから食堂に集まる面々を食堂を中心に描いたオムニバスかとも想像していたのだが、あんまり食堂は出ばってこない。第1話でのメニューの多さとかに期待したんだけどなあ。でもここのちらっと出てくるだけの料理がオムレットに温野菜とか、ステーキにじゃがいもたっぷりとか、なんとも食欲をそそるもので美味しそうである。
奈々津さんと恋愛とかするのかなーと思ったらそれもなかった。彼女は背が高くて、主人公は小柄だという設定が何度か出てくる。
なお本作は「月舟町三部作」の第1作で、第2作は『それからはスープのことばかり考えて暮らした』、第3作『レインコートを着た犬』はまだ書籍化されていないそうだ。番外篇に『つむじ風食堂と僕』もあるらしい。

筑摩書房のホームページから紹介文。単行本と文庫版とで違っていたので両方引いておく。
単行本は2002年12月10日刊。
食堂は、十字路の角にぽつんとひとつ灯をともしていた。私がこの町に越してきてからずっとそのようにしてあり、今もそのようにしてある。十字路には、東西南北あちらこちらから風が吹きつのるので、いつでも、つむじ風がひとつ、くるりと廻っていた。くるりと廻って、都会の隅に吹きだまる砂粒を舞い上げ、そいつをまた、鋭くはじき返すようにして食堂の暖簾がはためいていた。暖簾に名はない。舞台は懐かしい町「月舟町」。クラフト・エヴィング商会の物語作家による書き下ろし小説。
文庫版は2005年11月9日刊。
懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。