2014/06/23

ぼくには数字が風景に見える

ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)
ダニエル・タメット
講談社 (2014-06-13)
売り上げランキング: 10,966

■ダニエル・タメット 翻訳:古屋美登里
本書は、1979年イギリス生まれの男性が2006年に出版した自叙伝“Born on a Blue Day”の2007年邦訳が文庫化されたものである。

書店でこのタイトルと100%ORANGEの装画と「小川洋子さん絶賛!」の帯の文字を見て、このタイトルは単行本のときに気になったような覚えがあり、文庫になったんだからもうこういうのは四の五の迷わずに読むべし、という直感で購入した(小説じゃないのでネタに関心がわくことが第一条件だからだ)。

でももしかしたら読みにくかったり、難解だったらどうしよう?というのはまったくの杞憂だった。
読みはじめるやいなや、わたしはダニエル・タメットというひとのあまりにも特別で不思議な脳の世界にぐんぐんひきこまれ、夢中になってしまったからだ。
ダニエルは自閉症スペクトラムであり、アスペルガー症候群であり、幼いころてんかんの発作を起こしたことがあり、そしてサヴァン症候群なのだそうだ。さらにいえば、思春期以降で明らかになるが、同性愛者でもある。

池谷先生の著作など読んで、人間の脳って面白いなあ、想像を超えるユニークさだなあと思ったりしていて、小川洋子『博士の愛した数式』も驚き、新たな世界を垣間見る思いで興味深く読んだので、この本も、そういうスタンスで読んでいった。だから正直わたしの関心はダニエルの天才的な脳のもたらす出来事にあって、最初はすこぶるミーハーな気持ちで読んでいた。だけどダニエルは産れてから成長していく過程でさまざまな困難があり、それを家族や周囲やもちろん本人の努力でのりこえてきたわけで、そのことにはとても強く感銘を受けた。文中や訳者あとがきにも出てくるが、いまと違って当時はまだ発達障害について一般にあまり知られていなかった。おそらく、周囲や学校の教師などにも理解されにくかっただろう。いまでもいろいろ誤解があるらしいし。また、本書を読んで「発達障害とはこんなもの」と解釈するのも誤りで、これはあくまでもダビエル・タメットというひとのケースがこうだった、こんな感じの例もあるよ、くらいにとらえたほうがいいようだ。脳のことはまだまだわからないことのほうが多いらしいから。

「ぼくには数字が風景に見える」というのはとても美しいタイトルで、想像力をかきたてられるが、これは原書は「Born on a Blue Day」なわけで、翻訳者がつけたのか編集者がつけたのかわからないが上手い日本語タイトルだなあと思う。翻訳タイトルにあるように、この著者には数字がカラーで見えて、しかも大きさもそれぞれ違って見えるらしい。数字を見ると色や形や感情が浮かんでくることを「共感覚」と呼ぶそうだ。幾つもの数字が連なっているものは風景に見えるのだと云う。たまに、文中にそのイラスト(?)が書かれているのが残念ながらそれは「風景」というにはあまりにも簡略化されすぎていて、せいぜい「図」くらいにしか見えない。このかたに絵の才能があったらなあ、もしくはコンピュータ・グラフィックを扱うことが出来たらなあ、とちょっと惜しく思ってしまう。

数字はぼくの友だちで、いつでもそばにある。ひとつひとつの数字はかけがえのないもので、それぞれに独自の「個性」がある。11は人なつこく、5は騒々しい、4は内気で物静かだ(ぼくのいちばん好きな数字が4なのは、自分に似ているからかもしれない)。堂々とした数字(23、667、1179)もあれば、こぢんまりした数字(6、13、581)もある。333のようにきれいな数字もあるし、289のように見映えのよくない数字もある。(中略)
 ぼくの場合はちょっと珍しい複雑なタイプで、数字に形や色、質感、動きなどが伴っている。たとえば、1という数字は明るく輝く白で、懐中電灯で目を照らされたような感じ。5は雷鳴、あるいは岩に当たって砕ける波の音。37はポリッジのようにぽつぽつしているし、89は舞い落ちる雪に見える。

ダニエルはわたしとあまり年齢は変わらないが、9人兄弟の長男で、文中にご両親が別に宗教的な理由で子どもをたくさん育てたわけではなく、大家族を望んでいたからだと書いてあったが、それが書いてある時点では4人目くらいで、それでも「いまどき多いなあ」と思ったのにそのあとも次から次へと妹や弟が生まれていくので少々びっくりした。しかも、お世辞にも裕福とは言えない家庭状況でなのに(小さい子どもが多いので、両親ともその世話のために仕事に行けなくなったりしている)。これはイギリスではそんなに珍しくないことなのかなあ。