2014/06/14

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)
金原 瑞人
ポプラ社
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■金原瑞人
タイトルが面白そうだったのと、翻訳家のエッセイにはちょっと興味があるので文庫だし、と買ってみた。とはいうものの、わたしは金原さんの翻訳書をほとんど読んでいないんだけど(調べたら、『ジャックと離婚』だけ、あとは『武士道シックスティーン』の解説とか)、でもこのひとの名前ってよく目にするから精力的に活動しておられるイメージがあった。それになにより、あの芥川賞作家・金原ひとみの実父だしね。
本書を読んで初めて知ったけど、このかた、法政大学社会学部教授でもあるという。1954年生まれ。

なかなか気さくなくだけた内容で、タイトルの内容を反映しているのは最初のエッセイだけだが、翻訳にまつわるあれこれや、ヤングアダルトを日本に紹介していったいきさつ、英語と日本語の特性の差による問題や、そもそも「翻訳家で食べていけるか」という非常に現実的な内容までもりだくさん。
日本語、英語など言葉や翻訳に関心があるひとはもちろん、そうじゃないひとにも気楽に親しめるんじゃないかと思える、とてもくだけた、読みやすい面白い内容だった。
例えば、英語は全部「I」と「you」だけど日本語はいろんなのがあってそれで性別とか年齢とかある程度限定されてしまう、でも原書はそれによって主人公の正体が曖昧にされている場合があって素直に訳すとネタバレになっちゃう場合がある…なんてのはすごく面白い。だからいっそのこと主語なしで訳しちゃうとか、でもそうするとどうしてもわかりにくくなる部分があるとか。最近の日本語で書かれたミステリーでも主人公の性別がどんでん返しってのがあったなあ。

本書のそもそものなりたちは、メールマガジン「児童文学評論」に連載された「あとがき大全」が基礎になっていて、これは現在も著者のホームページで読むことが出来る。ちょっと覗いてみた感じだと、「あとがき」なのでもちろんその作品についての解説的な内容が6割と、脇道のおしゃべり的な内容、といった感じだ。
その「脇道」だけを編集者がまとめて江國香織との対談、ゼミ出身のラノベ作家2人との鼎談などを加えて1冊の本にしたのが2005年牧野出版から出された本書の親本で、このポプラ社文庫は2009年の刊行である。
もとがメールマガジンで、それを編集者が部分的に切り取って出来た本だからか、文章推敲をもう少ししたほうがいいんじゃないかなあ?と思う部分が2,3箇所あったが(同じセンテンス内に同じ単語が2回出てくるとか)、まあ細かいことはこういうスタンスの本では気にしないでいいだろう。

目次はポプラ社ホームページからコピペ。

Ⅰ ぼくの翻訳事始め
屋台のカレー屋になるはずだった/はじまりは「ハーレクインロマンス」/リーディングの時代/誰も来られない図書館 犬養先生のこと・その1/海外児童文学通信/児童文学シンポジウム 犬養先生のこと・その2/ヤングアダルト招待席/初めて読んだ原書
Ⅱ 翻訳は悩ましい
アイをめぐる悩み/アイをめぐる悩み、ふたたび/男なの? 女なの?/固有名詞はむずかしい/やっぱり英語は異物なのだ/原書を読む、ということ/タイトルをつけるセンス/翻訳の寿命/翻訳の言葉、言葉の翻訳/縦書きVS横書き
Ⅲ 翻訳家に未来はあるか
翻訳家に必要な才能/翻訳家に向かない辞書マニア/翻訳の後輩たち/共訳が増えてきたわけ/料理人と翻訳家の共通点/翻訳家は「立場なき人々」である/翻訳家の現実/翻訳家に未来はあるか
対談 翻訳は楽しい 江國香織/金原瑞人
Ⅳ 本をめぐる出会い、旅、人
ファンタジーの年/マジック・リアリズムの魅力/チカノ文学とルドルフォ・アナヤ/瀬戸川猛資さんのこと/楽しい偶然/三味線との出会い/フロリダ日記/幻のエジプト、ギリシア/アイルランドの本屋/なつかしい古本屋/柔らかな感性に向けて/「書く」ためにすべきこと
鼎談 「創作ゼミ」の真実 古橋秀之/秋山瑞人/金原瑞人
あとがき/文庫版へのあとがき
怪物――金原瑞人さん 上橋菜穂子