2014/05/09

皿の中に、イタリア

皿の中に、イタリア
皿の中に、イタリア
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内田 洋子
講談社
売り上げランキング: 12,117

■内田洋子
初出は「小説現代」2011年12月号~2013年7月号(「永遠の食卓」から改題)。
2014年2月13日刊。
このあいだ読んだ『ジーノの家』は2011年刊の単行本が文庫化したものだった。内田さんの著作は多い。もっと以前に書かれたものもあるけれど、とりあえず最新刊を。しかもわたしがここのところ興味を持っている料理関連のエッセイ集というから嬉しい。

出版社の紹介文にはこうある。
食べることは、生きること。食と共に鮮やかに浮かび上がる、イタリアに住まう人々の営み20編。
あとがきにあるのだが、「食べることは、生きること。」という言葉に対し「当たり前のことを」と失笑した女がいたという。しかし、本書の一字一句を噛みしめるように、書かれるひとの人生とそれにまつわる食べ物の話に思いをめぐらせつつ読み進んできた身としては「(キサマに)なにがわかるっていうんだ」と気色ばみたくもなる。

『ジーノの家』を一読、たちまち著者のファンになったわたしだが、「次から次へ」と手を出すにはこのひとの書くものは濃厚過ぎるというか、そういう読み方は勿体ないというか。
文章はすっきりキリリと引締まったスレンダーな印象で、余計な装飾は無い。簡易な言葉を遣い、わかりやすく簡潔に要点を突いてくる、しかしそれを操るひとの視線、思慮の深さ、人生経験による思い遣りなどがあってのことだから、読んでの印象がとてもあたたかい。こういう表現はどうかと思うが「肝っ玉かあちゃん」というイメージが近いような気もする。内田さんはたぶん独身なので「母」ではないんだけど、もっと広い意味での懐の深さ、みたいなところがいわゆる広義の「母」を感じさせるんだろうか。「母」に語弊があるならば「海」と言い換えてもいいかもしれない。そう、著者の名前は「洋子」さんだ。

「イタリア人といえば、陽気で人懐っこくてフレンドリー」というイメージだけで読んでいると、本書に出てくる「イタリア人」には目を白黒させられる。イタリアといっても地方によって随分違うみたい。個人の個性の違い、というんじゃないの?と思ったけど、どうもそれだけではなくて、日本でいう「県民性の違い」みたいなのがイタリアにもあるらしい。道であっても目も合わせず挨拶もしない、のが普通である、とか。一筋縄ではいかない、人付き合いの難しそうなひとたちばかり出てくるので、たまに親しみやすいひとが出てくるとほっとしてしまうくらい。また、本書にはイタリアに住むドイツ人のある一家が出てくるけど、これも「これがドイツ人全般」だとしたらかなり嫌というか、衝撃だなあ。友情をはぐくむのに抵抗を、困難を感じるぜ。

日本人の中でも内田さんはかーなーり、人付き合いのベテラン、上手いほうだというのが読んでいて伝わってくるんだけど、そのひとにしてこれか、わたしだったらまあまず無理だな、というケースが続出する。
本書に登場するひとの特徴として吝嗇・無愛想・無口というのがあるのだけれど、とくに吝嗇ぶりが徹底していて「ケチっていっても日本人はもう少しよその家のひとには体裁を繕うというか、人目を気にするんじゃないかなあ」と何度か目を丸くしてしまうすごさ。

さっきも云ったようにとても読みやすい文章なのだけど、内容がすごくディープなものが多くてそのひとの人生とか内面とかいろいろ関わってくることが多いから一篇一篇がずっしりと「食べごたえ」があり、しばらく胃(気持ち)の中に残り、少しずつじわじわと血の中に浸透して吸収していく感じ。
もちろん暗いだけじゃなく、明るい要素もあり、いろいろだ。

それにしても内田さんの健啖ぶりには時に度肝を抜かれる。
イタリア人のお宅で「生きた虫が中から出てきてぴょんぴょんはねている羊のチーズ」を差し出されて、あなたは食べることが出来ますか? わたしだったら絶っっっ対に無理!!
あまりにもびっくりして「そんなの存在するの?」とネットでググったらイタリアの珍味として普通に知られている食材のようだった。ぐわーん。
世界はヒロい。

あ、でもそういう変わったのがメインじゃなくて、さすがは食のイタリア! 新鮮な魚貝とトマトとワインとフォカッチャ、パスタにオリーブオイル、ブイヤベース、豆の煮込み……美味しそうなものがこれでもかと出てくる、どんどん食べる、作る、笑う、みんなで食べる!という展開も満載でこの本読むとイタリアン、しかも家庭的なのをがっつり食べたくなってくる。とりあえず今夜の夕食は魚の切り身とたっぷりの野菜、もちろんトマトも入れてコンソメで煮込んださ。


目次

金曜日は魚/ロブスターに釣られて/魚へんに弱いと書いて/引き立ててこそ名酒/ひからびても、ソラマメ/魚が駄目なら/されど、水/母の味/残り物には福がある/八月の約束/船乗りの知恵/喉を通るのは煮汁だけ/島が鳴る/贈って贈られて/食べても、食べても/けもの道とオリーブの木/上司が辞職した理由/計り知れない味/食はパンのみにあらず/食べて知るイタリア

装丁は緒方修一。