2014/05/15

世にも奇妙なマラソン大会

世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)
高野 秀行
集英社 (2014-04-18)
売り上げランキング: 4,196

■高野秀行
久しぶりに高野秀行を読む。
なにげなく書店に行き文庫新刊平積みをチェックしていたらこれがあって、帯に「人生初のマラソン大会はサハラ砂漠!?」とあってなんだその無茶は、面白そう、と思って。あと、高野さんの著作はタイトルを見てもピンと来ないというかあんまり自分の興味のわかないテーマっぽいのが多いのだが今回は「サハラ砂漠」も知ってるし、そこで「マラソン」というのは想像を絶する無謀ぶり(しかも「人生初」って!!)で、是非詳しい話を知りたくなったのだ。

全篇そのルポかと思いきや、本書は4つに大きく分かれており、砂漠マラソンネタはあくまでその1つに過ぎないのだった。カッコよすぎるぜ、高野さん。これだけのネタだったらふつうこれ1本で1冊書いちゃってもいいくらいの斬新さ。なのに惜しみなく短くまとめてしまう!「これくらいのことは別にそう特別なことでもないさ……」ってさりげなく言う感じでしょうか!?(←絶対にキャラが間違っている)。

目次はこうだ([ ]内は初出)。
はじめに
世にも奇妙なマラソン大会 [「本の雑誌」2010.10月号~2011.2月号+書き下ろし]
ブルガリアの岩と薔薇 [「本の雑誌」2010.4~5月号]
名前変更物語 [「本の雑誌」2009.10~12月号]
謎のペルシア商人 ――アジア・アフリカ奇譚集 [書き下ろし]
 謎のペルシア商人
 中米の種付け村
 It(イット)
 沖縄の巨人
 犬好きの血統
 人体実験バイト
 二十年後
あとがき
解説:山田静

1篇目は予想していた「マラソンの話」というよりは、前半はその開催地である西サハラの政治的な状況とか歴史的な・世界的な立場とかが中心に語られている感じで、あれ?とか思って読み進んでいったのだが後半走り始めるとちゃんと「砂漠でマラソン」の話になっていた。でも前半に書かれていたことのほとんどがよく知らなかったことだったので、恥ずかしい、今回読めて、知れて、よかった。
高野さんは宮田(珠己)さんと親しいし、両方エンタメ・ノンフのひとだし「本の雑誌」にゆかりが深いのでちょっとイメージが混同しがちなんだけど、そうそう、高野さんは語学が堪能なんであった。英語はもちろん、フランス語、スペイン語も会話できちゃう。すごいなあ。他にもいろんな言語をかじっておられるようで、アラビア語も勉強したことがあるらしい(これは身につかなかったということだが)。
それになんのかんの言ってマラソンしちゃうところなんかも、宮田さんよりスポーツが得意な感じだなあ。
別にどっちがどう、というわけではなく、そういう違いを面白がりながら読んだ(失礼な読み方で申し訳ない)。
なまじこの前に読んだ高野さんの本のテーマが「腰痛」だったもんで語学もスポーツからも遠かったから、それでああ高野さんの原点ってむしろこっちだったなと再確認したというか。いや~、スゴイひとだったんだよね、あらためて。

2篇目のフランス語の出来るゴツいおじさんに付いていったらそのひとが結婚歴もあり娘さんもいるのにゲイ(というかバイセクシャル)でそのひとに口説かれる話。あわててサヨナラと逃げていくのかと思いきやきっちり手作りの夕食をいただいてるし!なおかつワインとかじゃんじゃん飲んじゃってるし!危機感無さ過ぎだろう。そのうえあろうことか下心ありまくりとはわかりつつもそれゆえの親切、大切に扱われること(つたないフランス語でもきっちり聞いてもらえることとか、質問しても馬鹿にされないとか)に「世の女性が海外に行ったときにはこんな感じで接してもらえるのか!」と感動しているしまつ。おいおい、貞操は大丈夫なの!? とかなりハラハラしちゃったよ、まあ同時に「そうか、そういう感想を持つんだな」と新鮮にも感じたけど。でも女の場合、ふつうは異国で知らない異性の家に1対1でノコノコついて行ったりしないけどね。家族とかと住んでるとはっきりしてるならともかく。

3篇目の名前変更に関するすったもんだ劇は、最初の連載部分は「本の雑誌」でちらっと読んでいたのだがそのときも「なんとまあ、とんでもない発想をするひとだなあ」とびっくりしたり呆れたりしていたのだが今回落ち着いて通しでその顛末を最後まで読んでやっぱりおんなじ感想を抱いた。最後に旅券課のおじさんに手紙を書くところが高野さんらしいというか、好きだなあこういうことするひと。
苗字や名前についての日本の仕組みと世界の違いとかがわかって、面白かった。漢字はちがうけどローマ字だと一緒とか、漢字は一緒だけど読みが違うとか、日本語ならでは、だよね。

4篇目というか、これは著者やその知人友人の体験した不思議なこと・奇妙な経験をいろいろ集めた「奇譚集」で、すなわちノンフィクション、実話だということなのだが、まるでフィクションの短篇集のよう。それもかなり上質な。世の中にはこんなに科学や理屈では説明できない現象が起こっているのか。
不思議な話とはちょっと違うけど「人体実験バイト」の設定はちょっとだけ初期の大江健三郎の短篇「死者の奢り」を思い出したりした(学生の頃に図書館で一読したきりなので細かいことは忘れたけどこのバイト設定のどうしようもない感じが)。
話としては「沖縄の巨人」がいちばん脳内に映像を浮かべて「おおおおお」という感じだったけどこれは伝聞だしなあ、本当かなあ、とも少し思う。窓いっぱいの顔、とかほんとどんなんだろう。想像を絶するなあ。これの舞台が「沖縄」というのもなんだか「沖縄なら、あるのかな…」とも思わせる要因かも。ガジュマルの精キジムナーとかがいる文化だもんね。