2014/04/07

人質の朗読会

人質の朗読会 (中公文庫)
小川 洋子
中央公論新社 (2014-02-22)
売り上げランキング: 6,164

■小川洋子
本書の単行本は2011年2月25日刊。
神秘的な雰囲気な真っ白な小鹿?が印象的で、その少し前に出て書店でみかけて素敵な装幀だなと覚えていた『こちらあみ子』(2011年1月12日刊。迷ったけど結局未読)とおそらく同じ作家さんの手による。
土屋仁応という方の作品で「小鹿」(2010年)が「人質」、ググったら「あみ子」のは「麒麟」だそうだ。

当時、小川洋子の新刊ということでぐぐぐっと引き寄せられたのだけど、「人質の」というのに引っかかってしまって、実際内容はタイトルどおり人質になってしまったひとたちの「朗読会」らしかった。しかもその人質たちが最終的には助からない、という設定であることも書評誌かなにかで知ってしまって、そういうのはちょっとしんどそうでつらいからひとまず保留にしておくか~ということにしたのだった。

今回文庫化したので、気にはなっていたので、読んだ。
帯がついていて、WOWOWでドラマ化したらしい(2014.3.8放送済み)。ふーん。
それがらみで、解説は主演の俳優、佐藤隆太さん。
「大切なのは、じっと耳を澄ませること /それは絶望ではなく、今日を生きるための物語」というコピーが書いてある。「じっと」というのは小川洋子っぽいというか、キイワードだよなあ。

それで読んでみたらやっぱりすんごく「小川洋子ワールド」なのだった。
最初に短い章があり、人質が全滅してしまうことが申し渡される。
どうしてそういう状況で「朗読会」が? というのが疑問だったのだけれども、それについての説明を読んでああそういうこと、と思えた。

  今自分たちに必要なのはじっと考えることと、耳を澄ませることだ。しかも考えるのは、いつになったら解放されるのかという未来じゃない。自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせる。

そのうえで、次の章から人々が1つずつ、自分の中にある思い出を語り始める。
話の一番最後にそれぞれの現在の職業・年齢・性別と、この旅行に来た理由が記してある。短篇を読んで、ああその後そうなったのね、というのがそれぞれ確認出来て、読み終わった後にもうひとつ「書かれなかった」そのひとの人生の期間についてしばし思いを漂わせる。しっかり根を下ろして成功したんだ、とわかるケースが多くて、なんだかそれで少し救われたようなほっとするような気になる。年齢がすなわちそのひとの享年であるとわかっているから、余計に。

第一夜 杖 ・・・太った男についての粘着的な描写が小川洋子っぽいなあという感じ。因果っぽい話だったから全篇こんな感じなのかと少し思ったがそうではなかった。
第二夜 やまびこビスケット ・・・何故こういう大家さんに自ら接触の機会を増やしていくのかなあ、性格が違うなあと思った。ビスケットの型が気味悪い系が多いのが著者らしいなあと。内臓型のビスケットとか…。  
第三夜 B談話室 ・・・なんだかこういう夢がありそうな。どんどん自分の番が近づいてくる。同じ会に続けていくんじゃなくて次々変わっていくのが意外だった。どれも少しずつ奇妙な、現実には無さそうない会だなあ。       
第四夜 冬眠中のヤマネ ・・・ぬいぐるみがおじいさんの手作り。目が作者と同じに潰してあるというのは堀江敏幸『熊の敷石』を思い出した。背負って競争の展開にはおどろいたな。
第五夜 コンソメスープ名人 ・・・このコンソメスープを飲みたいかと云われると……。小川洋子が料理を書くとこうなるんだねえ。呪詛入ってそうというかなんというか。
第六夜 槍投げの青年 ・・・これも一種の「よろめき」なんだろうか。
第七夜 死んだおばあさん ・・・この語り手はいったいどういうひとなんだろうと思った。最後のつけたしが書いてあるところがやっぱり意味を持たせたいのかなあ、有ると無しじゃ違ってくるけど、うーん。
第八夜 花束 ・・・どんな形であれ、こういうふうに終わるとは予想していなかった。良い話、というのとも微妙に違うんだけど、でもなんだか清々しいというか、語り手がすっきりできて良かった、かな。
第九夜 ハキリアリ ・・・これだけ人質が語った物語ではない。最初に読んだときは9つある話にもう1つ付け足された、というだけの気持ちで読んで、最後まで読んで、結局この本は「最終的に助からなかった人質たちが語った」という設定にする意味があったのか、別にふつうの「朗読会」じゃいけなかったのかとモヤモヤした片付かない気持ちになり、もう一度本書を端からぱらぱらと見直して、最終話の最後のパラグラフをふたたび読んで、やっと「ああ、そうか、そういう意図だったのか」と思ったが、でも納得というのではなくて、少々慄然としたというか、なんともいえない「怖さ」というか、小川洋子の容赦なさ、怜悧な底恐ろしさみたいなものを感じて、わたしはこの物語をどう扱っていいのか少々持て余したままだ。

  各々、自らの体には明らかに余るものを掲げながら、苦心する素振りは微塵も見せず、むしろ、いえ平気です、どうぞご心配なく、とでもいうように進んでゆく。余所見をしたり、自慢げにしたり、誰かを出し抜いたりしようとするものはいない。これが当然の役目であると、皆がよく知っている。木々に閉ざされた森の奥を、緑の小川は物音も立てず、ひと時も休まず流れてゆく。自分が背負うべき供物を、定められた一点へと運ぶ。
  そのようにして人質は、自分たちの物語を朗読した。


ひとつだけ言えることは、最終的には死が待っているけれど、自分の人生の物語を書いている時点では死は確定されたものではなくて、書いている当人もまだ希望を持っていて、じっと目と耳を研ぎ澄ましていまと過去を見つめてそれをノートに書きつづっていた少女がかつて存在し、その日記はこの「人質たち」と同様にやはり死後に出版されて多くのひとに読まれた。アンネ・フランクのことであり、そして小川洋子は彼女の熱心な愛読者・探究者として有名である。このことは絶対に無関係ではないと思う。


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