2014/04/18

通天閣

通天閣 (ちくま文庫)
通天閣 (ちくま文庫)
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西 加奈子
筑摩書房
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■西加奈子
初・西加奈子。
2006年11月単行本刊の2009年12月文庫化したもの。2007年第24回織田作之助賞受賞作。
44歳の工場で働く中年男と、25,6歳の若い女性の主観が交互になっている。
その合間合間にフォントを変えてちょっと風変わりなホラー系?の小説みたいなのが挿入されている。これはそれぞれが見ている夢なのかなあ。象徴してるのかなあ。
大阪はミナミ、通天閣周辺が舞台でかなり濃いベタベタの関西弁で書かれている。

中年男は、大学を中退してぶらぶらしている20歳のとき子連れの年上女と出会い、4年間結婚していたが、それ以降はずっとやもめ暮らし。他人とのかかわりを極端に嫌い、例えば昼食に行く店は2軒しかなくてしかも同じメニューしか頼まないので店員に覚えられ、「いつものですね」と笑顔を向けられる、そのことに迷惑・不愉快さを感じる、自転車の空気入れをやってもらう間の店主との関わり合いが嫌と云う。職場ではいちおう古株なので、単純作業である仕事のスピードはものすごく速く効率的なのだが、そこでの人間づきあいなどは余計なものとして嫌っている。女などが転がり込めないようにと選んだという狭い部屋は通天閣のすぐ近くにあり、旅先で購入した電池を抜いて動かなくした置時計をいくつも置いてある。掃除はほとんどしていないようだ。というかこのひとは自堕落というか、女の人と別れて以降人生を放棄してしまったらしく、およそ前向きさ、活気というものが無い。とっつきにくそうなキャラではあるが人間観察はかなり細やかなので、他人に無関心というのとは違うようだ。

女の子のほうは、大学卒業後出会った彼氏と半年前まで2年間同棲していて、花屋さんで働いていて、そのうち結婚できたらいいなあと思っていたのに、突然彼氏がニューヨークに映像の勉強をしに行く、3年くらい帰らないとか言って出て行ってしまい、月15万のバイト収入ではそこに住めなくなる、かといって同じ大阪だけど実家(母親が再婚相手と暮らしている)に帰るのは彼氏を諦めてしまうことのようで嫌だというのでスナックでチーフとして働くことにした。ホステスには向いていなく、でもスナックみたいなところで働きつつ彼を待ち続けることで彼が反省し早く戻ってくるのではないかという望みによるものだと云う。よくわからない理屈だが、本人は真剣かつ必死である。客観視すると一目瞭然なのだが。

このなんとも云えない「残念」な感じのふたりの日常が交互に語られていくわけだが、読んでいくうちにその関係がわかってきて、ふーんと思う(別に感動的とかではない)。

成長記とか、明るい上昇の変化とかがあるわけではないのだが、中年男の職場に臨月の嫁をかかえた吃音の新人が来て彼とは話をするようになったりするのは良かったかな。最後の最後で思いもよらない展開が彼を待っているし。
女の子のほうの職場のスナックは店長・ママ、女の子たちすべて「あちゃー」という感じで、変というかなんというかもう滅茶苦茶なので、スゴイなあとびっくりしながら読んでいた。性格が悪くて嫌がらせをするとかはまったくないので暗くはないのが救いなのだが、わたしだったら1日も勤まらないだろうなあ。
とりあえず彼氏問題に決着が着いて、ママと通天閣に上って話をするシーンは感動的なのだけど本人はそんなので誤魔化されたくないようだ。うんまあ、失恋はつらいし、すんごくしんどいよね。

でも考えてみればこの「いい話」なエピソードでも重要な小道具として出てくるし、彼女の通勤は自転車だし、おお44歳の主人公の通勤も自転車であったぞ、しかも最終的に自転車ドロの汚名を着せられるというのもあるぞ。
そうか、この小説はタイトルの通天閣だけではなく、「自転車」も隠れた主役だったんだなあ。

解説は津村記久子。また変なところに感動したもんだなあ、やっぱちょっと変わってはるなあ、と思ってしまった。