2014/03/21

残夢三昧 内田百閒集成16

内田百けん集成16 (ちくま文庫)
内田 百けん
筑摩書房
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■内田百閒
ちくまのこの集成はテーマごとに纏めているようだが、この巻は前半が「火事」それから「雷」「台風」「一歩間違えたら死んでいた出来事」「暗所、高所などの恐怖症」についての文章、そして「夢」関係で、なんだか全体的に不穏というかぞわぞわ底冷えするような、妙な不気味さに満ちている。
“フキンシンちゃん@長嶋有”よりもよっぽど不謹慎というか、怖がりだけど好奇心旺盛というか、たとえば火事見物が好きで、どこそこで火事だと聞くとそれっとばかり電車に乗ってまで見に行く、あるいは焼け跡まで足を運ぶ。己にはない習性なので、なんなのかなあと思う。たき火などで炎を見るのは好きなのだが。台風のときに妙にテンションが高くなるあの感じか。火事によって災難を受ける人の内情などいちいち忖度しているふうでは無く、何故忖度せずにいられるのかがよくわからないが、まあ、時代の違いもあるのだろうか。百閒先生の若いころの火事というのはまだ消防車が無く、半鐘をたたいて町中に火事を報せる、そういう時代だった。後年消防が出来て半鐘がなくなったときにちょっと残念そうである。
子どもというのは危なっかしく、一歩間違えれば、という経験は誰しもひとつやふたつは持っていそうな気もするが、百閒先生も運よく助かったというのが子ども時代だけでなく空襲のなかでもあったらしく、おおよくぞ生き延びてくださったという思いである。後世の読者にとっても幸いであった。
他人の夢の話はつまらないというのが定説であるが、百閒先生のこれはほとんど小説みたいで、どこまで夢のままか知らないが、だいたい百閒先生の小説というのがふつうに悪夢のようだったりするので、区別がつかない。これは夢ではなく想像・妄想かというのもある。若いうちに亡くなった知人たちを机のまわりに4人並べて思い出にふける話などはとても素晴らしく、胸を打つ。

解説は翻訳家の岸本佐知子!なるほど、絶妙のセレクトという感じである。このひとのエッセイも現実と非現実と創作の境界線が曖昧で面白いもんなあ。
もうひとり、昔の百閒先生との思い出の一文は、先生の家に書生のようにして10年も一緒に住んでいたという内山保さんという方による。思いついたら絶対実行しないと気が済まない、お琴も気になる個所があったら気が済むまで延々やるという実に内田百閒らしいエピソードで、やはり「百閒は遠くにありておもふもの」という気がする。

巻末の初出一覧を写す。テーマ別に、古い順から並んでいるので、掲載年が若返るところがテーマの区切りである。

炎煙鈔 「東炎」昭和9.5月号
炎煙鈔 続 「東炎」昭和9.6月号
予行 「大阪朝日新聞」昭和9.9.7,8,11
沖の稲妻 「改造」別冊時局版21 昭和16.8
火の用心 「アサヒグラフ」昭和17.3.11
近火 「日本海事新聞」昭和18.4
蒸気喞筒 「日本海事新聞」昭和18.5
町の野火 「国鉄情報」昭和22.9.30
煙塵 「西日本新聞」昭和31.4.16,17
巨松の炎 「小説新潮」昭和39.9月号
雷 「小説新潮」昭和39.10月号
大風一過 「小説新潮」昭和41.12月号
その一夜 「小説新潮」昭和43.12月号
沙美の苔岩 「小説新潮」昭和36.10月号
雞声 (掲載誌不詳)
軒提燈 「河北新報」昭和10.1.1
忘れ貝 (掲載誌不詳)
狸芝居 「時事新報」昭和10.1.5
暗闇 (掲載誌不詳)
夜道 「国鉄情報」昭和22.4.30
暗所恐怖 「小説新潮」昭和42.2月号
土手 「小説新潮」昭和41.11月号
夢路 「国鉄情報」昭和23.12.10
片寝 「べんがら」昭和26.9月号
夢裏 (掲載誌不詳)
心明堂 「小説新潮」昭和40.9月号
天王寺の妖霊星 「小説新潮」昭和43.5月号
残夢三昧 「小説新潮」昭和44.1月号
残夢三昧残録 「小説新潮」昭和44.3月号
新残夢三昧 「小説新潮」昭和44.5月号
舞台の幽霊 「小説新潮」昭和44.6月号
四霊会 「小説新潮」昭和45.7月号