2014/02/26

ようこそ地球さん 【十代からの愛読書】

ようこそ地球さん (新潮文庫)
星 新一
新潮社
売り上げランキング: 93,062

■星新一
本書は1961(昭和36)年新潮社刊『人造美人』と同年同社刊『ようこそ地球さん』の中から19篇を選びその他の作品を加えて1971(昭和46)年に刊行された『ボッコちゃん』に収録しなかった残りの42篇を収めたもので、1942(昭和47)年に上梓された短篇集である。
星新一は1926年生まれなので、本書に収録されたショートショートと呼ばれる作品群が最初に世に出たころは35歳くらいだったことになる。

わたしが初めて氏の作品に触れたのは小学5年の夏休みで、しかもいきなりエッセイだった。母の実家に帰省していて、母の弟である叔父さんの学生時代の蔵書をあさっていたら『きまぐれ星のメモ』という文庫を見つけ、表紙には何やらお星さまの絵が描いてあるし、これなら子どものわたしにも読めるかな、と思ったのだ。「未来には蚊がいなくなるが、蚊にかまれたところを掻くのは気持ちが良いので、蚊にかまれたような症状になる薬が発明されているかも」みたいなことが書いてあって「変なことを考えるおとながいたもんだなあ」と驚いたことを今でも覚えている。
きちんと(?)星新一の作品に自分の意思でふれたのは中学生になってからで、近所の書店で初めて買ったのが『おのぞみの結末』と『悪魔のいる天国』だった。単純にタイトルが面白そうだったから選んだわけだが、たちまちその魅力にハマり、それからはお小遣いと相談しながら新潮文庫の黄緑の棚を少しずつ読み崩していった。途中で角川でもやはり黄緑の背表紙で並んでいることに気づき、そちらも読んだ。『きまぐれ星のメモ』は角川で再会し、おおあのときの変なおとなはこのひとであったかと認識した。
文庫になっている作品はほぼ総て読んだと思う。高校1年のときはファンレターを書いたりもした(ファンレターを送った唯一の作家さんである)。社会人になっても折にふれて何度も楽しんできたが、蔵書を整理しなくてはならなくなり、あるとき年少の弟に譲ることにした。

今回10年以上ぶりに読んだのは新たに文庫で買い求めてのことである。先日なにげなくネットをぶらぶらしていてふっと星新一の「処刑」っていうのが好きだったよなあと検索してみたらなんとファンの間でも1位に選ばれているという記事にぶつかった。収録されているのが本書というわけである。アマゾンでは既に新刊入手不可能。時の流れに茫然としていたらそのあと訪れたショッピングモール内の書店でこれを発見、いつ買うの・今でしょ、ということになった次第。

久しぶりに読んでの全体的な感想。面白い。時代を超越している。インターネットの無い時代なので、もしそれがあるとすればと仮定してもそれを飲み込めるのりしろが考えられているというか……。真鍋博の洗練されたイラストのほうがむしろ古さを感じさせる。
ただ、こんな話し方をするひとはいないなあ。特に女性が妙に丁寧。妻「召し上がったら」夫「おまえ、食べろよ」というのは昭和30年代はリアルだったのかも知れないが。女性同士の学生時代からの親友の会話で「なにをなさっていたの」式も昔はそうだったのだろうか。タカラヅカの喋り方、翻訳ドラマの喋り方というものがあるように「星新一世界の会話」という様式が確立している、と思って読む。
とにかく一字一句おろそかにされていない、非常に無駄のない、それでいて書くべきことはきっちり丁寧に説明されている理性的な文章だなあということを感じた。

収録内容(特に良いと思ったものに★)
デラックスな拳銃/雨/弱点/宇宙通信/桃源郷/証人/患者/たのしみ/天使考★/不満/神々の作法/すばらしい天体/セキストラ/宇宙からの客/待機/西部に生きる男★/空への門/思索販売業★/霧の星で★/水音★/早春の土★/友好使節/蛍/ずれ/愛の鍵/小さな十字架/見失った表情★/悪をのろおう/ごうまんな客/探検隊/最高の作戦/通信販売/テレビ・ショー/開拓者たち★/復讐/最後の事業/しぶといやつ/処刑★/食事前の授業/信用ある製品/廃虚/殉教★

天使考」はライバル社の競争と天使を組み合わせた発想が面白く「西部に生きる男」は昔風のユーモラスなどたばたドラマが面白く「思索販売業」はセールスマンの言葉巧みさとそれにのっかる単純な買い手を大袈裟に書いているところが面白く「霧の星で」はこういうのは時代関係ないなあと「水音」は会社員の描写のリアルさとペットの正体のとんでもなさがすごいギャップで「早春の土」はこれぞ星新一ブラックと痛快で「見失った表情」はこの設定と描写が素晴らしく「開拓者たち」のラストを読んだらしばらく考え込んでしまう深いテーマと余韻があり「処刑」の装置・舞台設定、主人公の思考や言動の説得力をこの短さで表現する手腕に酔いしれ「殉教」の装置が眼前にあったらどうしようかそしてこの話でラストをこういうふうに持ってくるシニカルな視点がたまらない魅力なんだよなあとしみじみ。

とんでもない設定と、着実で現実的に端的にまとめる文章力。頭のキレがずば抜けて良かったことは、いまさら言うまでもないだろう。

きまぐれ星のメモ (角川文庫 緑 303-2)
星 新一
角川書店
売り上げランキング: 245,536

おのぞみの結末 (新潮文庫)
星 新一
新潮社
売り上げランキング: 90,306

悪魔のいる天国 (新潮文庫)
星 新一
新潮社
売り上げランキング: 13,627