2014/02/16

ワニのあくびだなめんなよ

ワニのあくびだなめんなよ (文春文庫)
椎名 誠
文藝春秋 (2010-09-03)
売り上げランキング: 184,886

■椎名誠
これは「新宿赤マントシリーズ」第18作目。
椎名さんは著作が実にたくさんあって、わたしはどちらかというと自伝的小説とか短篇集とか他のエッセイはちらほら読んできたのだが「赤マント」シリーズはたくさんあるしどこから読めばいいのかわからないし時事的なその場その場のエッセイにはあんまり興味が無いなあ、とか思っていままで読んだことがなかった。でもとりあえず「別にどこからだって読みたいところを読んでみて、気に入ったらどんどん広げていけばいいのだ」とサトったので、手を出してみた。
このシリーズの解説はふつうは沢野(ひとし)さんだけらしいのだが、本書は「赤マント」シリーズ連載1000回突破記念スペシャルということで、目黒(考二)さんの解説も載っていてお得感があったので、選んだ。

初出は「週刊文春」2004年9月30日号から2005年9月29日号ということなので今から10年近くまえのエッセイということになる。

わたしが椎名誠というひとを初めて知ったのは書店で本を見たのが先だったのか、テレビのドキュメンタリーかビールのコマーシャルで観たのが先だったのか、よく覚えていないが、このひとは映画も撮るし、世界中に冒険に行ってるみたいだし、見た目もなんだか冒険家っぽいので「小説家」というイメージがあまりなかったのだが、自伝的な小説やエッセイもあるけどバリバリのフィクション、SF小説も書かれる。知れば知るほど多才なお方だなあ、と思う。「本の雑誌」実物を読むより先に椎名さんが雑誌の編集長をしていることは知っていて、読みたいものだと思っていたが当時奈良の書店に扱っているところが無かった。就職して大阪に通うようになってようやく毎月買えるようになったときのヨロコビを思い出す。

話がそれたが、そのようなイメージの椎名さん、世界中を飛び回って冒険して、文章を書いて、というそのまんまのリアルな日々が書かれているのが本書なのであった。読んでいて、びっくりするくらい「日常」と「世界の辺境への旅」がイコールになっている。凄すぎて、カッコよすぎて、椎名さんあなたはやっぱリーダーっす、一生ついていきます、とか誓いたくなってしまった。

あと、もうひとつ実感したのが「親分だ、本物の親分がここにいる」ということ。
わたしが椎名さんの著作を集中して読んだのは十代の後半から二十代前半ぐらいが多かったのだが、最近は「本の雑誌」がらみで知った高野秀行とか宮田珠己とか読んでいることが多く、でも今回久しぶりに椎名さんを読んだらまごうことなき、高野さんや宮田さんの「親分」がここにいたのだった。おおお!

久しぶりに読んで懐かしく嬉しかったのは、椎名さんの書く食べ物を食べるシーンというのは料理が実に美味しそうなことが昔から印象に残っていたのだけれど、今回読んでもやっぱり美味しかったものを食べるときのイキオイというか雰囲気が素晴らしかったこと。「合宿」のときのスパゲティとか、実態はきっとそれほどでもないんだろうけど、場の空気とか、空腹感とか、熱々のをスバヤクかっ込んでいくそのイキオイとかが相まってきっと「とんでもなく美味しかったんだろうなあ」とにこにこ幸せを感じる。

びっくりしたのは幻の鯨、一角鯨を見に行く話で、何回かに分けて書かれているのだけれど、イヌイットのひとが見つけるやいなやライフルで撃ち出したのでぎょっとなった。獲り、即、解体、そして食べている。びっくりしたけどそのすぐ後に「イッカクはイヌイットだけが制限つきで捕獲を許されている」という一文があり、「ああそうか、そうだろうなあ」と思った。「幻の」とか書いてあるのにいきなりだったから心の準備が出来ていなかったのだ。でもイヌイットのひとたちのは生活の中で最小限、ってことだよね。

そういえば本書では北極圏によく行くのだが、その中でホッキョクグマというのがそこに住む人たちには脅威で、遭ったらまあ一瞬で殺されるというか、逃げても絶対追いつかれるらしいので、必ず銃を持っていて「殺される前に殺す」のだとか、一人歩きはホッキョクグマの餌食になるので必ず車に乗るんだとか、もう次元が、グラウンドが違うんだよね。そういうところで「動物保護」とか「自然保護」とか言ってたら自分が殺されて餌にされてしまうと。はあー、って思った。規則とか規制とかいうものは絶対に一律に作れるもんじゃないなあと。

あと、浮き球ベースボールが思いのほか大きいスケールの話になっているのとか、パタゴニアにまたもや行ってらっしゃることとか、日本でのクルマ問題、おばちゃん問題、オッサン問題などいろいろである。
それにしても椎名さんをホームレスと間違えて声をかけたひとが2人も出てきて、おやまあ。