2014/01/29

台所のオーケストラ

台所のオーケストラ (新潮文庫)
高峰 秀子
新潮社 (2012-06-27)
売り上げランキング: 74,693

■高峰秀子
著者についてわたしはなんにも知らなかったのだが、地元書店で文庫の棚を目を皿のようにしてホリダシモノを探しているときにこのタイトルが目に飛び込んできた。「台所の」というからお料理関係か、と思って引き抜いてみるとその通り。
ぱらりと中身を確かめると色ーんな料理がたくさん載っていて、レシピもざっくばらんで面白そう。
帰ってからネットで調べてみたら、昭和の大女優さんで、なかなかのゴウケツだったみたい、その人生はざっくりウィキペディアで読んだだけでもかなりの波乱万丈。
大正13年の生まれで、ついこないだの平成22年の年の瀬に鬼籍に入られたという。

『台所のオーケストラ』は、1982(昭和57)年6月にに単行本が潮出版社というところから出た本で、当時高峰さんは58歳くらい。それが2000(平成12)年11月に文春文庫に入り、いまは絶版のようで、2012(平成24)年6月、新潮文庫から出されたものがわたしの手元にある。潮のときと文春のときは表紙が安野光雅のイラストだったみたいだけど、新潮は著者の白黒の写真なんだね。中身にちょこちょこっと描かれているイラストも安野さん。御交流があったらしい。

大女優さんは自分で料理なんてしないわ、というイメージがあるけれど、高峰さんは日常的に台所に立たれていたようだ。解説の養女の方によれば、それも好きというよりは義務感や責任感がそうさせたらしいけど……でもヤッパリ、どこかで食べるのが好きとか美味しいものが好きとかいう食いしん坊の要素が無ければこのセンスやこだわりは生まれないんじゃないかナァ……と最後まで通読熟読しての感想である(文体がちょっと、影響されている)。

そう、文体!
わたしが本書で魅了されたのはそのメニューや食材の豊富さや手軽だけど気の利いた調理法だけではない。なにより、高峰さんの文章が素ん晴らしくって!!

こういう文章は、文筆業をメインにされている方にはあんまり見かけない。しかもここ数十年の作家さんにはまず無さそうな、どこかシロウトくさい、サバけたざっくばらんな口語体で、カタカナの遣い方とか、方言めいたものを混ぜて茶目っ気を出すのだとか、わざと乱暴な口調にしておどけるのとかね、「古い」はずなんだけど、女優さんが書いてらしたと想像するとなんだか愉快。気風が良くてイナセな感じで素敵ねえ。飾らなくて、自然体。これはね、ご本人が書いてるなっ、って絶対に確信できる。ゴーストライターじゃ出せないし、編集者が直したらこんなチャーミングにならない。
文章に惚れて、まだ読みかけだったけど思わず帰り道の書店で高峰さんの他の著作を探しちゃった。

本書は大きく4つに分かれていて、「和風」「中国風」「洋風」それに「ソース類」。1つの食材について見開き2ページ、右側にその食材に関するエッセイ、左側に材料と作り方が書いてあるというのが原則パターン。

レシピは、料理超初心者にはちょっと不親切かもしれなくて、何故なら調味料の分量とかが細かく書いていなくてそれは「それぞれのお好みでご自由に調整してね」というスタンスだからだそうだ。逆にわたしのような大ざっぱな人間にはこのほうが感覚で作れてしかも面白い。

メニューは、目次が新潮社のホームページで全部見ることができる(のを、検索していて知って、ハッと気付いて先日苦労して書き写した平松さんの著作の出版社ページに飛んで確認してガクゼン…ここに全部書いてあるじゃないかあああ、写さなくてもコピペで数秒で済んだじゃないかあ、わああああ脱力!)。

――スミマセン、少々取り乱しましタ。
話を戻して、えー、本書には和食48品、中国風24品、洋風34品、合計106の料理とそれに加えて数々のソースのレシピが載っていて、文庫1冊でほんっとお買い得、しかも読んでるだけでじゅうぶん楽しい。

昭和に書かれた料理本?古臭くない?と思うことなかれ! いま読んでもめっちゃおしゃれでハイカラなメニューがたくさん。もちろん、昔からの「古き良き日本のおばんざい」風なものは主に「和風」の項で参考になるし。

エストラゴンとか、エシャロットとか、アンディ―ヴ、シュペツレにケパーなんていうのが出てくるんだけど、こんなのわたし食べたこと無いんじゃないかなあ。知らぬ間に外食で口にしてる可能性はあるけど意識してないわけで。少なくとも自分で調理したことは一回も無い。そのへんのスーパーで売ってるのも見ない気が。伊勢丹の百貨店地下とかに行けば、あるかしら?

ともあれ、本書の基本は、「そこらにあるもので、手間をかけず、ぱぱっと作れる簡単なもの」。ほんとに簡単なものは数分で出来ちゃうのもあり、中には(これ、ほんとに30分で出来るのかなあ?)というのもあるけれど、「手軽目先を変えたい」というのにはピッタリ、良い刺激になるように思う。