2013/03/09

ラヴクラフト全集 1

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))
H・P・ラヴクラフト
東京創元社
売り上げランキング: 2,718

■H・P・ラヴクラフト 翻訳;大西尹明
創元推理文庫のグレイの背表紙の中でもH・P・ラヴクラフトの全集はその思い切った黒を基調とした統一表紙などで独特の存在感があり、書店でちらちら横目で見てはいた。ホラー読みでも幻想文学ファンでもないわたしでもラヴクラフトの名前はそこここで目にしたから、「たぶん、このひとはそのジャンルでは基本・マストなんだろうな」とは感じていた。実際手に取ってみたこともなかったではないが、ぱらりと中を確かめるになんだか取っつきにくそう、と敬遠していた。
過日、SF読みが「昨今の萌え美少女ブームがついにクトゥルフにまできている」とユーチューブの動画で見た件を話題にしたので何気なく「クトゥルフって何」と訊いたら驚愕され、「クトゥルフ神話」について数分にわたる熱弁をふるわれた。こんなのは「一般教養」だそうだ。知らんがな。
それでその「クトゥルフ神話」の創始者が誰あろう、ラヴクラフトだということもそのとき初めて知った。
その後、国書刊行会の40年記念冊子を熟読していたら「クトゥルフ(ク・リトル・リトルという表記もあるらしい)」と「ラヴクラフト」の存在がいかにホラー、SF界にとって重要であるかが遅まきながら実感されてきた。

というわけで、専門外だもん、とかうそぶいていないで読んでみることに。
ラヴクラフトさん。フルネームは Howard Phillips Lovecraft。1890-1937で米国人。1890年は元号だと明治23年である。ついでに調べてみたらやはりホラー界の元祖たるエドガー・アラン・ポーは1809-1849。ふーん。

全集第1巻には4篇が収録されている。
「インスマウスの影」「闇に囁くもの」は中短編、「壁のなかの鼠」「死体安置所にて」はごく短い短編だ。
原文に忠実だからこうなのか、翻訳者の腕なのかわからないが、正直読みやすい文体ではない。また昨今の衝撃的展開満載小説に慣れた読み手には少々まだるっこしい、低刺激の、抑えた展開である。

そもそも一人称のホラーというのは怖くないのだ。だってその恐怖体験を語れているということはすなわちどんな恐ろしい目にあったとしても最終的に生きて帰ってるわけでしょ、しかも文字を書くなり喋るなり出来てるってことは少なくとも人事不省にも陥ってないし精神も崩壊してないんでしょ、という「保証」が見えてしまうからだ。
明治生まれの元祖に言うべきことじゃないのは重々承知なんだけど、なんで三人称で書かなかったのかな(という話を例のSF読みにしたら「ラヴクラフトはコズミック・ホラーだから」だそう。要するに、スタンスが違うってことか?)。

しかしじっくりと読み進んでいくとじわじわと周辺から丁寧に描写を重ねていくストーリー、いまや「お約束」になっているホラーの展開の紛れもない基礎がここに描かれていることに気付く。これは中学生くらいのときに図書館で借りてぞわぞわしながら読むのがベストの出会い方だろう。
「闇に囁くもの」は3番目に読んだのだが、このくらいになると慣れたせいもあるのか文章が気にならなくなり、集中して楽しめた。設定も度肝を抜かれる詳細が書いてあり、想像するだに恐ろしい。脳髄抜き出して電極あてて喋るとか何それイヤァァァ。
でも一人称だから主人公無事だし(このように自分に言い聞かせて恐怖を宥めることが出来る)。でも逆に、ここまで追い込められてよく生きながらえて体験談書けたなこのひと。

以下、ざっと各篇の感想をば。

「インスマウスの影」
インスマウスという町とそこの不気味な嫌悪感をあおる住民たちの話。ラヴクラフトさんはお魚が嫌いだったのかなあ、白人だし昔のひとだし日本人とは感覚が違うのかもねと思った。あと、見た目だけで不可抗力に忌み嫌うっていうのは現代の思考回路ではちょっと拒否反応が出てしまう。こういう混血による侵略という発想も昔のものだなあ。

「壁のなかの鼠」
壁の中の猫、ならポーに有名なのがあるが。この話でも猫さん大活躍。なんで壁も新しいのにしなかったのかなあ。

「死体安置所にて」
最後に読んだのだけれどもこれだけタイプが違った。クトゥルフ関係ない、んだよね? 普通に怖い話だけどブラック・ユーモアと解説にあって、まあそうかなあ。火葬の国では起きない事件。


「闇に囁くもの」
手書きの文通でやりとりしていて、相手が未知の恐ろしい集団から狙われていて時々手紙も盗まれるという状況で、相手からの手紙が突然タイプ打ちになり、文体も変わって、内容も突然「わりかし安全になったから誰にも知らせずに今までの証拠となるような品全部持って遊びに来てねv」的なことを書いてこられたらまず普通は「これほんとにあのひとが書いたの?罠じゃないか?」と疑うと思うんだけど。のうのうと何の不安も対策もせず出かけていく主人公がわからん。そのへんの説明(合理的不合理的いずれにしても)無し。そういう瑕疵に目を瞑りえすれば、前述したようにこの話は怖くて面白かった。

以下余談。

ラヴクラフトで検索したらこんなの出てきた。これも萌えなんだろうか…。
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黒 史郎
PHP研究所
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