2013/03/06

桜ほうさら

桜ほうさら
桜ほうさら
posted with amazlet at 13.03.05
宮部 みゆき
PHP研究所
売り上げランキング: 52

■宮部みゆき
宮部さんの時代物はテッパンなので必ずチェックすることにしている。で、期待大で読んで、かぶりつくようにどんどこあっというまに読んじゃったんで、面白かったことは確かなのだが、うーんどうだろう、なんか釈然としない思いが残るというか。
読んでいる最中も、宮部流人生の教えというか、いろいろ教訓になるエピソードや台詞などがあちこちにあって勉強になるなあという感じがあったが、読み終わってからあれこれ考えて、難しいなあ、人間ってなあ、とか答えの出ない問題がいくつも投げかけられていたことを実感する。

ぽわあああん、とした可愛らしい装丁で、イラストも愛くるしいが、内容と合ってない(まあ主人公のキャラとは合ってる……か)。
呑気な装丁と綺麗なタイトルでぼやっとしていたら張り飛ばされるような重たくて暗くてしんどい内容なので。いやまあ明るいシーンや楽しいシーンも散りばめられているし何より小説として面白いのは確かだが。

今回のはシリーズものではなく単発ものだ。
主人公は古橋笙之介、22歳。

以下、小説の内容に触れています。未読の方は、華麗にスルーなさるべし。

!!!以下はネタバレあります!!!
性質は大人しく、平穏を好み、穏やかでひとにも親切な、いわゆる好青年である。この笙之介、事情があって郷里から江戸にある「お役目」を言いつかって出てきた。
笙之介はいいやつだと思うし、嫌いじゃない。素直に応援したくなるし、しあわせになってほしいなと思う。だけど時々、というか結構な頻度で「ああ歯がゆいなあ~」「もうちょっと覇気があっても良いんじゃないの」ともどかしく感じてしまったのも事実だ。
宮部さんは本当に丁寧にいろんなひとを描くから、悪いひとがほんと嫌なひとで、しかも改心も反省もしないパターンが多く、読んでいてストレスがたまる。それとバランスを取るように、良いひとはほんとに心がほっこりする、拠り所たるキャラクターであることが多い。今回、途中までは、わたしの頭の中で「こっちが良いひと、こっちは悪いひと」という区分けがなされていた。だけど、どんどん読み進んで終盤になっていくにつれ、「あれ?このひとはほんとに単なるいいひと?」と考えさせられる展開があって、そして最後まで読んでからしばらくあれこれ考えているうちに、「この主人公は、ほんとにこれで良いのか? お兄さんが一方的に悪いように読んでいたけど、あとから考えるとそう単純に区分け出来る問題じゃないぞ」と気持ちが変化してきた。
もちろん、自分の目的のために、ひとを殺めようとするのに「良い」なんてひとつも無いことは確かだ。だから良い悪いの話じゃない。ただ、お兄さんは気の毒だなあ――――と。おそらくは産まれたときから、母親の期待を一身に背負って、ふがいなくしか見えない父親(この父親像も、とても良い人のように描かれていたが所詮は笙之介の主観でしか描かれていなかったのだ、ということに作中のある人物が吐きすてる台詞で気づかされる仕組み)、次男でなにも重荷が無く父親と同種の弟、そういう環境で育っていったら、長じてああいう思考になってしまうのは仕方ないというか……。
何故、この父親は、一家がこういう歪んだバランスになってしまっているのに何も手を打たなかったのだ、それは暗愚と罵られても当然ではないか(殺されるほどの咎では無いとは思うが)。
この話では女性キャラに魅力的な方が揃っていて、梨枝さん、和香さん、おつたさんの三方が特に大好き。男性キャラでは実に機転の利くやんちゃ坊主の太一が素晴らしかったなあ。
この小説が勝之介の視点で描かれていたらどうだったんだろう、そっちも読んでみたかったな、というかすごく興味がある。
続篇はスジ・設定的に無いだろうけど、別の話で、太一が主役の話があったらめちゃくちゃ楽しくて面白くなるだろうな。笙さんは出てこなくても良い(詰まる所これがこの感想の肝であり本音だ)。