2013/03/04

ラピスラズリ

ラピスラズリ (ちくま文庫)
山尾 悠子
筑摩書房
売り上げランキング: 30,986

■山尾悠子
このあいだ国書刊行会の40周年記念冊子を読んでいて気になったのがこの作家でした。ネットの書評をいくつか散見しただけでも伝わってくる読者の熱意はまさに「崇拝」。「ネ申」という言葉が流行るはるか以前にまさに「神様」のような存在であることが容易に想像できます。そんなに凄い作家なのに何故わたしはいままで知らなかったんだ、とオノレの無知を恥じるほかはなかったのでありますがまあ幻想文学はわたしの守備範囲じゃないというのが主な原因でしょう。また30年近く新作を発表されていなかったというのも大きい気がします。
1955年生まれで1975年デビュー。1985年以降は休止。1999年に復活。
本書は復活後に書かれた作品で、2003年に国書刊行会から上梓された長篇小説。2012年1月にちくま文庫に収録されるにあたり、再推敲が行われているそうです(文庫版あとがきより)。

ここまで崇められて宝物みたいに読まれている作家の作品ってどんななんだろう、と期待とある種の畏怖を感じながら読みはじめたのですが、最初は幻想文学に不慣れということもあって戸惑ったりもしたのですが(物語の世界観をつかんでひたるまでに時間がかかる)、読み進むにつれてどんどん引き込まれていきました。

脳内に、広がる、雪深くシンと静まる世界とひっそりとでも荘厳にたたずむ「冬眠者」たちの屋敷、というかむしろイメージでは「城」!
目覚めてしまった眠れない少女、西洋の物語に出てきそうなゴースト(亡霊)、塔の棟。まるで美しい外国の絵本です。読んでいる最中に何度か翻訳書を読んでいる錯覚にとらわれました。それくらい、日常とかけ離れた浮世離れした世界が確立しているのです。

冬眠をするといってもクマなどの動物の話ではなく、彼らは「ひと」です。秋からどんどん食糧を食べ、冬がはじまるころに襲ってくる眠気にしたがって寝室に鍵をかけ、人形を傍らに置いて深く長い眠りにつき、暖かい春がめぐってくるまで目覚めることのない彼らを我々同様の「人間」とするのはなんだか違う気がして、そういう「種族」なのだと、どちらかというとムーミンとかの妖精に近いんじゃないかと思うのですが、まあそういう性質のひとびとの物語なのです。

冬眠者たちは館の主人側で、召使たちは冬も眠らない。春は目覚めたばかりのひとに与える離乳食?みたいなものから作り始め、夏はまあ普通にしていて、秋くらいからどんどん食べ物をこさえては消費されるので大忙しになる、冬になって館が休眠期に入るとそこからは召使たちの息抜き放題……。

どこか外国の話で終わるのかと思いきや、後の2章は日本、それも随分後の世の未来の日本が舞台になっていて、これがまたものすごく哀しい物語なのでした。やはり冬眠者のお話なのですが。

そう長い物語ではないのが信じられないほど悠久の時間を感じさせる世界がとても美しく紡がれていて、これを例えば十代になにも予備知識がない状態で読んだらどれほど衝撃的だったろうと思います。