2013/03/24

リテイク・シックスティーン

リテイク・シックスティーン (幻冬舎文庫)
豊島 ミホ
幻冬舎 (2013-02-07)
売り上げランキング: 282,973

■豊島ミホ
豊島さんの小説も一時期(2006-2008年頃)かなり集中して読んでいたのだが今回久しぶりに。風のうわさで小説家を引退したとか漫画家になる(?)とか聞いたが本作を最後に、だったんだね。

題名から「ああ16歳やり直すんだね」と予想がついたし、単行本刊行時にグリムウッド『リプレイ』とか佐藤正午『Y』とかいう人生やり直しものが大好きらしい書評家の御大・北上(次郎)さんが絶賛されていたのは覚えている。わたしは16歳からやり直せって言われても御免蒙りたいなあ、もっかい十代はキツすぎるよと考えたことも。
それにしても、こういう話だったとはね。
漠然と想像していたのとは全然切り口の違うもの、「16歳からやり直す」と言ってもSFのにおいがまるでしないし、我武者羅に成功・しあわせに向かって努力とかそういうんでもない。「青春らしい青春を生きるんだあ」って、うーん、27歳の意識とそれまでの記憶があってそういうのって果たして、可能なのかな実際のところ。絶対「素」の16歳よりは世知辛くなってるもん。ていうか、たかだか1回生きたからって、同じ素材と環境の16歳に戻ったところでそう人生巧いこと生き直せるもんかねえ、わたしにはまず無理かな、せいぜい「もっと勉強する」くらいだろうとか考えながら読んでいたので自称・未来から戻ってきたひと=孝子がちゃらちゃらへらへら「いまが楽しければいいっていうかそれじゃなきゃ意味なし」とばかりに高校生活を謳歌しようと焦る姿にいまいちシンパシーが沸かないのだった。

話の作り方として「おっ、巧いな」と思ったのはそういう特殊な設定である孝子を主人公に据えるのではなくて、その友人で、真面目でこつこつ努力するタイプの少女・沙織がその位置に置かれているということだ。彼女はなかなか理性的でクールで、「未来から来たの」とかいう親友のぶっとんだ発言にもほとんど動揺せず、頭から信じるとか真っ向から否定したりとかそういう極端な態度もとらないでかなり冷静に状況や友人の言動などを分析して理解しようとしていて、偉いなあと思った。読めば読むほど沙織はよく出来た子で、性格もまともだしひとの意見も聞けるし、見た目も可愛く(同級生の少年にいわせると「上原多香子+エンジェル」らしい。エンジェルて……)、運動神経も程良く、おまけに頭も良いらしい。そして努力家。男子に人気がある。脱いだらすごいというタイプで実は巨乳。先生にも周囲にもしっかり者として認められている。
家庭環境にあまり恵まれておらず、母親が娘のことに全然気を回したり親らしい言動をしないどころか足を引っ張ったり迷惑をかけることしかしないというのは非常に気の毒だが本人の欠点ではないし。「少女漫画の主人公かよードリーム入りすぎてるよー」とちょっと内心げんなりしてしまったが。

中盤まではふつうの楽しい高校生活エンジョイ話でこちらもわりと気楽に面白がって読んでいたのだが、孝子の記憶と実際がだんだんずれて行って、あんまり「未来から来た」は関係なくなっていって、文系・理系などの進路のことなどを考え始めるあたりから孝子の言動に内心首をかしげることが多くなっていって、そして医師の息子である友人たちと4人で職場見学をしにいく話で孝子への反感がかなり強くなった。27歳まで生きて、そこから逃げて、何言ってんだ、って思った。っていうかたかだか27歳で自分の人生見切ってんじゃないよ甘えんなよ、16歳の沙織のほうがよほど純粋かつシビアに見据えて努力してるよ、って思った。そしてそこからの物語の展開が息苦しくなったのだった、でも同時にめちゃくちゃ濃度が濃くて面白くなったのだ。

「やり直したい」と思うことが、人生にはあるかも知れない。この話はそうではないが、例えば誰かの死を止められたんじゃないかというような場合は血を吐くような切実さでそう願うだろう。でも、そんなことは現実には不可能なのだ。そしてたとえやり直せたとしたって、より良く生き直せる保証なんてどこにも無い。
そうじゃなくて、そんなこと考えるくらいなら、もっときちんと「いま」「その先のこと」を考えて、一日を、一瞬を、大切に生きることのほうがずっとずっと大事だし、難しいことでもあるのだ、というようなことを考え、共感しながら最後読み終わって、素晴らしい小説だったなと思った。「願い」がかなわないからとずっと立ち止まって下を向いて悔やんで生きるのも、前を向いて顔を上げて生きるのも、同じ一生、たった一度きりの一生。孝子がそのことに気づいてくれて本当に良かった。自分を自分で檻に入れてちゃ、何回「やり直し」したってダメなんだよね。

十代より二十代、二十代より三十代のほうが、生きやすいと思うし、「そのとき」は一回しかないから楽しかろうが苦しかろうが、やっていけるのだ。少なくとも「逃げ」て解決には結びつかない。っていうか、この小説で高校一年生の生活や友人関係を読んでたら面倒くさいわ視野は狭いわ何よりみんな青臭いわで、こんなん絶対社会人やったあとの27歳がやってたら「カユさ」のあまり発狂すると思うんだけど。

自分が高校生だったときとはあまり重ならないキャラ・環境だったので懐かしいとか一切無くて、リアルだなあとかも感じなかったんだけど、もっと底の方に流れている根本的な考えの指針みたいなのが最後まで読むとぐぐぐっと迫ってきた。本当に豊島さんは書くごとに化けていったというか、凄い作家になったと思う。また彼女の新作が読める日が来ることを心待ちにしたい。