2013/03/14

64 ロクヨン

64(ロクヨン)
64(ロクヨン)
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横山 秀夫
文藝春秋
売り上げランキング: 577

■横山秀夫
横山秀夫からも随分遠ざかっていたのだが(というか著者の新作自体7年ぶりだそうだが)、かなり評判がいいので去年の発売から気にはなっていた。でもずっしりと分厚いし内容も濃厚そうだからおいそれとは取り掛かれないなあ、と敬遠していた。
しかしやっぱり気になる。それに横山秀夫は面白いというのは実感として知っていて、それが渾身の「究極の警察小説」を書いた、と言われると……。

すっきりした頭で月曜の朝の通勤から読みはじめるや、たちまち引き込まれた。昼休み、帰ってからと時間を見つけては没頭した。小説の中に、こんなにすうっと入っていけてしかもあっというまに集中させる、この凄まじい引力はなんなんだろう。文句なしに、面白い。深刻で、重たい事件を扱っており、警察内の魑魅魍魎といったかんじの複雑で不愉快な人間関係、マスコミとの難しいやりとり・舵の取り具合と問題はいくつも出てくるから読んでいて楽しいとかはほとんど無いのだが、そんな中で些細な身内との会話などで少し肩の力を抜ける瞬間があったりすると心底ほっとする。だいたい、仕事だけでもかなりストレスのたまる厳しい環境なのに、家庭でも思春期の娘さんが心の病をかかえて3か月間家出をしているという大変なことになっていて、奥さんへの気遣いもあり、よくこれで正気でキレずにいられるなという感じなのだ。だからものすごく面白くてページを繰る手をとめられないというかそれすらも忘れて小説の中の「現実」に浸りきっていくのだけれど、時々身をはがすように「えいやっ」と平和な(?)読み手側の現実世界に戻ってきたときにふうっと長い息を吐く感じで、おお、「ロクヨン」は架空の話であった、そうじゃそうじゃと己に言い聞かせないと頭がまだ「ロクヨン」の世界を生きている感じに染まっているのだ。

「ロクヨン」とは7日間しかなかった昭和64年に起きたD県警史上最悪の誘拐殺人事件を示す内部の符牒。
新聞記者を長く務めてらした著者ならではの、警察内部の軋轢(刑事部VS警務部)、マスコミと警務部(広報)の駆け引きなどやり取りが、実にリアルに(といっても実際を知ってるわけじゃないけど)怒涛の迫力で描かれる。「警察発表」「マスコミの報道」「匿名報道」などについて再考させられること必至。

しかもそういう描写だけじゃなく、社会派小説と思って読んでいたらどっこい、「おお、これはミステリーでもあった!!」と驚愕・狂喜の素晴らしい血湧き肉躍る展開がっ。うおっ。そうきたか! 
伏線の張り方、回収の仕方。なるほど、そうだったのかと明らかになる瞬間の興奮。

もちろんすべての問題がくっきり解決しないことへの不満が全くないわけではないが、まあ、実際そんな簡単になんでも綺麗に片付いたら生きていくのに誰も苦労なんざしないわなあ、というわけで。「小説」で切り取られた後も、三上さんたちの毎日は、生活は、きっとどこかで続いているのだ。そしてそう、あゆみちゃんの明日も。

読んでいくうちに主人公の女性(妻・娘・部下)への接し方、考え方に途中で反感を覚えたりしたが、この小説の中で三上さんも少しずつ気づいたり、考えを改めたり、いろいろ模索したりしていく。別に特定のキャラに共感するとかそういうのは無かったけれど、女性は特に、「そうじゃない」とか「それはないよ」とか「どうしてそうなるの?」とか思っちゃうシーンがあるんじゃないかな……。

それにしても読了後、自分の過去の感想を検索してナナメ読みしていたらわたしは二渡さんが活躍する話を既読なのらしかった、そしてすっかりファンになっていたようなのだった、でも全然覚えていない(オイ)。おおお、二渡さんってそういうひとだったのか! びっくりしたー。
そのことわかってて覚えてて読むのとそうじゃないのとではちょっと違ってくるよなあ……でも覚えてなかったんだもんなあ仕方ないよなあ……、と、少し遠い目になってしまったんであった。