2013/02/24

太陽の塔

太陽の塔 (新潮文庫)
太陽の塔 (新潮文庫)
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森見 登美彦
新潮社
売り上げランキング: 4,693

■森見登美彦
森見さんの著作は2006年に夜は短し歩けよ乙女を期待して読んでガッカリしたことがあってそれきりだったのだが、ずっと視界の端で気になる作家ではあった(なんせ評判が良いしコンスタントに売れている)。
書店であれこれ見ているときに手に取ってみて、これがデビュー作ということだし、もっかい森見さんの世界に入ってみよう、と思った。

というわけで今度は期待せずに読んだのだが、結論から云う。
めっちゃ、面白かった!! 良かった!! 
最後は感動すらしてしまった……!
ううう美しいというと違うんだけどあの主人公の失恋した元彼女のいろんな表情を次々に思い出すシーンが切なすぎて涙(泣かんけど)……!!

主人公「私」は休学中の大学五回生。学生じゃないし社会人じゃないしなんか宙ぶらりんな存在。そして女性にも縁が無く、もてない喪男、という設定だ。
いやーでも休学中と言っても泣く子も黙る京大生☆なんで、それだけでもう世の中に対するめっちゃ有効な最強アイテム持ってると思うだケド、しかも三回生のときには彼女がいたんだからその気になればお付き合い出来るキャラなんでしょ、とか内心ツッコミつつも主人公のへたれぶり、脳内(被害)妄想の強烈さと並行するエベレストより高い自尊心のアンバランスさが面白くて読むのがやめられない。昼休み、通勤中、帰ってからと読み続けてあっというまに読了した。

日本ファンタジーノベル大賞受賞作というので、不思議なこととかが噴出するのかとも思っていたのだが、そういうのはほとんど無くて、つまりは主人公の若い男性の荒れ狂うとめどない脳内妄想が「ファンタジー」なのだった。あとは叡山電鉄がらみのあれは、夢?とかそういう不思議も出てくるんだけど。

主人公は水尾さんという同じ大学の後輩に恋をしてしばらく付き合うんだけど、その頃のことは最初なかなか話さなくて、ずっと曖昧にしておくのかなと思っていたら後半で少しずつ打ち明けていくんだけど、んー、水尾さんがどういう女性だったのかがいまいちよくわからない、太陽の塔に感動してハマる様子なんか読んでるとけっこう「独自の道をゆく」タイプなんだな、ああどっちかというとオリーブ系なのかな、それにこの子も京大生なんだから頭はめっちゃ良いわけだよねーと脳内補完しつつ読んだけど。
クリスマスイブに、たいようでんちまねきねこは……どうだろう。私がもらったとして。うーん。まあ、そのときに相手をどれくらい好きか、だよね、ああいうのは。ってことはその時点で残念ながら水尾さんの中で主人公は既にだいぶ評定が落ちてたんでしょうなあ……合掌。

最初の方は、キモくてしかもストーカー!?おまけに自分は世のストーカーとは違うんだとかやたら無駄な理論武装して言い訳してるしなにこのイタい男~とか思わないでもなかったんだけど、上手い具合に「これ以上やったら読者ついてこなくなるライン」を越えない程度に抑えられていて、そんでなんか行間に「いやこれ、実は自分でもイタいってわかってるんす」という自虐が感じ取れるから、妄想暴走しててもどっか客観視してるっていうか、冷静な部分が透けて見えるんだね、だから安心して読める。

「俺は間違ってなくて世間が間違ってる」式の強がりが頻出するけど、でも実際はちゃんとお寿司屋さんのバイトを真面目にしてて、そこの店主と奥さんに対してきちんと敬意をはらい、恩義を感じているところとか、父親と母親に対して尊敬と感謝を忘れないところとか、ひととして大切なところがしっかり固まっているというのも非常に好ましい。

あとこれは完全にわたしの偏った趣味の世界なのだけど……この主人公、最後の方で「痩せている」ことが判明するんだけど、わたし男の人は痩せてる、ひょろっとしたひとが好きだったりして、それまで読んでいるときはどっちかというとぽっちゃり系を想像して読んでいたのでちょっと良い意味でヤラレタ感があって、そうかー、そうだったのかーと思った。いやだって、あんまりアクティブな感じじゃなかったんだもん。

全体的に、ユーモアに満ちた楽しい作品。
反復横跳びを日々鍛えてるとか……想像しただけで笑える。文体そのものがわざと熟語を乱用してしゃちこばってるふうにしてあって、へたれな内容とのギャップがあってユーモラスなんだよね。
最後のほうの、「えじゃないか」騒動シーンは、「無さそうだけど実際にあったこと」みたいで、どうなのかなあ。想像してたよりずっと平和的な騒動で、すごく安心して、良かった!と思った。

京都が舞台で、叡山電車とか京阪とか元田中とか一乗寺とか百万遍とか東大路通りとか四条河原町とか八坂とか、そういう馴染みのあるワードが頻出するのも京都ファンには嬉しい。

解説は女優の本上まなみ。ちなみに主人公の愛車(ブレーキの壊れた自転車)は”まなみ号”……。