2012/10/25

消されかけた男

消されかけた男 (新潮文庫)
ブライアン フリーマントル
新潮社
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■ブライアン・フリーマントル 翻訳;稲葉明雄
瀬戸川猛資氏がたいへんに誉めておられたので読んでみた。

この話の主人公はチャーリー・マフィンと云い、見かけはうらぶれた冴えない中年男、しかしその実態は凄腕のスパイという設定なのだがこの名前を見るたびにわたしの脳内では以下のような絵が浮かんできて仕方ないのだった。
チャーリー・マフィン → チャーリー(・ブラウン)がマフィンを持って嬉しそう。
読了後、これはぜひイメージ・イラストを用意せねばっ、と頑張って描いたのでここに置かせていただく。トレンチ・コート(適当)とサングラスは安直な「スパイ」からの連想である。
念のため断っておくが本書は徹頭徹尾真剣な話であり、スヌーピーやお菓子のマフィンに代表されるような家庭的な雰囲気の入り込む余地はない。と云って悪ければ、グラウンドが違う。
ユーモアが無いとは言わないが、あくまで真面目で格好良い、洒落の効いたスパイものであり、無能で権力主義の上司のハナを明かすという爽快なスジガキが鬱屈しているサラリーマンの心を打つ名作とされている。
英国情報局秘密情報部(MI6)。
まことに渋くてダンディな響きではあるが、MI6と聞いて最初に思い出すのはバンコラン少佐(『パタリロ!』)だったりするからもうなにがなんだか。


こんなふうについ茶化してしまうのは、本書があまりにも理想的なスパイ小説だったからであり、あまりにも「世の男性はこういうのを好きで憧れるんだろうなあ」という感じだったからであり、美しく賢く優しく心から夫を愛している妻がいるのにもかかわらず、仕事のためととか言いつつ愛人を作りその愛人は主人公を愛していないといいつつ涙を流してくれたりする設定にムカついたからである。スパイものなので、時にひとが使い捨て駒のように死んでいくのもまるでエンタメ至上主義の映画のようで遠い目になってしまうし。まあ、主人公に同化しちゃえばとっても素敵なドリーム小説なので、陶酔できて幸せだろう。

誤解があるといけないので最後に断っておくが、本書は娯楽小説としては上級の出来であることは認めるのにやぶさかではない。
本書を読むと、英国や米国よりソ連(当時)のほうがカッコよく思えて仕方ないんだけどそれでどうも良いらしいのだからよくわからん。著者の権力主義への反骨精神ゆえ、ということだそうだ。