2012/10/17

エストニア紀行――森の苔・庭の木漏れ日・海の葦

エストニア紀行: ――森の苔・庭の木漏れ日・海の葦
梨木 香歩
新潮社
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■梨木香歩
エストニアって云われても「バルト三国」くらいしか浮かんでこなくて、昔、ソ連から独立したというニュースを聞いたときの記憶がぼんやり浮かぶだけ。なっきーの新刊告知でタイトルを知った時最初にわたしがしたことはグーグルマップでエストニアの位置を調べることだった。スカンジナビア半島の向かい。ヘルシンキが対岸にある。北の国、だ。

実際に本を手に入れてみれば紀行文なのに地図もなにも無くて、知りたいひとはこれを機会に調べて欲しいというスタンスかと思う。木寺紀雄さんによる写真が数ページ、中ほどにあってまずそこをぱらりと見やるととても鮮やかな色彩で思わず凝視してしまう。織物の赤、木の実の赤、木々の緑、渡る虹。うーん、でも表紙に選ばれたのはこの地味な葦原なのね。なるほど。

この紀行のサブタイトルは「コウノトリに会いたくて」でもあると思う、植物にも動物にもずっと親しい好奇心と愛情を持っている著者だけどヒトが住む場所と彼らはなかなか共存できない。人間がいかに多くの種を絶滅に追いやったかということが繰り返し梨木さんの絶望的な実感として語られる。そして、そんななかコウノトリは珍しく人里に棲む鳥で、その姿をせめてもの救いのように追い求めてしまったのだと、そんな心境を吐露しておられる。

この旅は、女性編集者、写真家、通訳、案内人とのチームワークみたいな面もあって、どっちかというと独自の視点と考察でその世界観を構築していくタイプの梨木さんだけど、こういうそれぞれがプロの仕事に徹する、尊敬できるひとたちと組んだときに取っていくスタンスとかも興味深くて、面白いのだった。カメラマンの木寺さんが着ていた独特のジャケットに対する内心のコメントとか、なんだかユーモラスでおかしい。あと、怪談とかしちゃうんだね。得意だそうだ。その流れでまさかのゴシック・ホラーみたいな展開もあって、怖いというか不思議というか、なんというか切ない哀しい話でしんみりしちゃうんだけどもさ。
なっきーって生きてるひとも、死んでるひとも、植物も動物も、あんまり扱いを変えないというか、真正面から受け止めようと努めてる感じだなあ、とかいうことを本書を読んでまたしみじみと思った。そうそう、森と同化というか溶け込もうとしてるシーンもあったよなあ。元祖森ガール、ってそうじゃないけど。

ふだんの生活圏から離れて、自分の背骨をまっすぐに立て直すための場所に行く。近い遠いの差はあれど、わたしも時々そうやってバランスを取っている。
誰の身にも「森」(つまり、それに類するもの)はあるのだろう。

エストニアのひとはみんな茸に詳しくて、茸がどっさり生えているから茸狩りとか目の色変えてやるらしい。日本ではよくうっかり毒キノコ食べちゃってニュースになってるけどそのへんは経験値が違うから大丈夫なんだろうなあ。そういえば映画「かもめ食堂」でも茸のエピソードは出てきた。あれはヘルシンキが舞台だけど。

留守を知らせるための印を「合理的だ」としてそれで成り立つ泥棒のいない国、お金持ちにはなれないけれど自給自足で生きていける国、自分の身の丈にあったぶんだけ働いて生活しているひとびと。
浮世離れ、まではいかないにしても、なかなか、別世界、ではあると思う。

一読しただけなので、また少し時間をおいて読み込んでいきたい。