2012/08/29

幽霊の2/3

幽霊の2/3 (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ
東京創元社
売り上げランキング: 105443

■ヘレン・マクロイ 翻訳;駒月雅子
書店の手書きポップで「復刊リクエスト第1位作品、新訳で登場」と書かれており、マクロイの作品はまあまあ当たりが続いているので休暇のつれづれに読んでみた。

精神科医ベイジル・ウィリングもの。
原著は1956年の刊行で、1962年に守屋陽一訳で創元推理文庫に収められたが、その後長く絶版になっており、マニアの間で名のみ語られる幻の名作と化していたそうだ。

なかなか面白かった。
最初のほうで主婦メグが小さい子どもふたり抱えて大忙しの中手紙を書くシーンなんかはコージーぽくて、全体的にはもちろんコージーじゃないのだけれど、どこかのんびりした牧歌的な印象がずっとあったのは気のせいかなあ。登場人物のキャラクターもべつに特段のんびりしてるってわけじゃなく、ミステリーの登場人物としてみんなシリアスなんだけど、めちゃくちゃ悪徳非道なのが出てこない人間くさい、みんなそこらへんにいそうなひとばかりだからかな。大根女優が成功した夫の財産目当てに戻ってくるのとか、三文芝居っぽくてベタベタだし。アル中を克服した、と思っていても苦手な妻が戻ってくるとたちまち飲んじゃう男の意思の弱さももうアメリカのミステリーで何度お目にかかったか、って感じだし。いろんなひとがいろんな言動をするんだけど、結局はちっぽけな保身のため、というのとかね。

タイトルが変わっていて、「なんでミステリに幽霊が出てくるんだろう。しかもそれが3分の2、ってどういう意味だろう」と思っていたが、このお話の中にそういうゲームをするシーンがあって、ああそうかと思った。そして、その後徐々に明らかになっていく真相によって、この印象深いタイトルに含まれた本当の意味もわかっていき、驚きとともに「なんて良く考えられたタイトルなんだ!」と感動するのだった。

この小説の主な登場人物は、売れっ子作家と、その別居中で売れないハリウッド女優の妻と、著作権エージェントとその妻、版元の社長とその妻、批評家2人である。めちゃくちゃ業界小説だ。日本にはエージェントというシステムがないけど、アメリカはそれが普通で、そのへんの仕組みとかがこの小説を読むとけっこうよくわかる。

トリックとか、犯人とか、そんなに以外でも斬新でもないのだろうけど、小説全体の筋とか雰囲気とか登場人物の設定や人間模様とかが面白くて、つまりミステリー以外の要素で十分楽しめたので、そのうえにミステリーとしても一定以上の水準には達していると思われるので、こういう作品が新しく訳され復刊されたのいうのは素直にありがたいと思う。

それにつけても、ベイジルというのはあんまり個性派じゃないね。
「精神科医」としてあるから専門的な知識を駆使して一般人には思いもよらない推理をするのかとか期待しがちだが、そういう作風でもないらしい。現代だとそこを強調するのが流行りなんだけど、昔はそうでもなかったようだ。