2008/03/02

若き数学者のアメリカ

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)
藤原 正彦
新潮社 (1981/06)
売り上げランキング: 3459

■藤原正彦
というわけで初期の傑作とされるこれも読んでみた。すんごい面白かった。

1972年の夏にミシガン大学に研究員として招かれ海を渡った、若き藤原先生のアメリカでの日々。

アメリカ対日本人、という気持ちで構えまくったり、ちょっとしたことがきっかけでどんどん深みにはまってしまってノイローゼのようになって苦しみ続けたりする姿には、ちょうど読み手である今の私と同年代のときに書かれた本ということもあって、ものすごく感情移入してしまった。同情し、共感し、のめりこむようにして読んだ。
やがて、少しずつ這い上がり、アメリカ・アメリカ人というものに少しずつ慣れ、理解し、自分の中で付き合い方を覚えていくその過程はアメリカならずともどこの世界でも人間関係やいろんな困難は事の大小は違えどあるものだから、とても勉強になる。

最近書かれた先生のものは年長者の視点なんだけど、これは若い・まだ未成熟な先生が書かれたものだから、共感したり、その青さにニヤニヤしてしまったりすることも出来て、面白いのだ。まあ、同じような年齢だけど先生のほうがあらゆる面で私の遥か上のレベルにいらっしゃることに変わりはないんだけれど。

例えば、このあいだ読んだ『遥かなるケンブリッジ』とのすぐにわかる違いがある。
文章の飾りが派手なのだ。

両方とても美しいよく推敲された文章であり、理路整然としていてわかりやすく親しみやすい内容であることは同じなのだが、『若き』のほうがなんていうか、装飾が華美(笑)。
「美しい文章を書くぞっ!」という意気込みが行間からあふれまくっていて、エネルギーがびしばし飛んできて眩しいのだ。これほど若さがわかりやすいカタチで表わされているものもなかろう。
たぶん、現在の藤原先生が同著を読み返されたら、「おーおー、気負っちゃって、まあ。若いねえ」と顔を赤らめられるんじゃないかな、と微笑ましく想像してみたりしたくなる、まことに失礼を承知で言わせていただくならば「かーわいいー」と言いたくなるこだわりぶりが文章のそこここに見受けられて、楽しいのだ。美文なんですよ、間違いなく。でもその後エッセイを何本も書くことで落ち着いた藤原先生の文章の後でこれを読むとその対比がくっきりしていて面白いのだ。

これは、藤原先生のエッセイを読んでいるとわかることだけれど、先生はけっこう負けん気が強くてらっしゃるというか、ある程度以上マイナスを感じられると逆に開き直ってハッスルされちゃう傾向が見受けられるのだけれど、この初期のエッセイもそんな感じでこんな文章になったのかな、なんて邪推してしまったりもして。

約30年前に書かれたエッセイだけど、今読んでもものすごくエネルギッシュで面白くていろんな意味で勉強になる。アメリカ人論、日本人観は昭和18年生まれならでは、という面が強い気がするけれど、それはそれとして、このくらいの年齢の青年が社会の中でどういうふうに仕事していくか、生きていくか、という一例でいろいろ感ずるところが多かったのだ。

ちなみにこの文庫のアマゾンの画像は↑のようなデザインだけれど、どうもカバーが変わったみたいで私が購入したものは違う表紙だった。