2008/02/12

中庭の出来事

中庭の出来事
中庭の出来事
posted with amazlet on 08.02.11
恩田 陸
新潮社 (2006/11/29)
売り上げランキング: 6919

■恩田陸
これも出版されたのは'06年の秋のことで、気にはなりつつも保留していたもの、やはり気になるので取り寄せてみた。帯に「第20回山本周五郎賞受賞作」とある。長らく無冠の女王といわれていたけれども面白いひとは賞に関係なく面白いのだ。

恩田陸はいつもタイトルだけで充分に惹きつけられるものが多い。読んでみたい、いったいどんな話だろうと好奇心を掻き立てられるものが多いのだ。しかも挿画にセンスの良いものをもってこられるので是非入手したくなる。本書も、そんな一冊だった。
「中庭」と聞いただけでイマジネーションが広がるではないか。

たまに、タイトルが素晴らしくて、設定が素晴らしくて、前半は確かに素晴らしいのだが肝心の〆が、そりゃまああるレベルまでは達しているから悪くはないんだけれど、でももうちょっとだけ、何か、物足りないなあ……という例がないわけではない恩田さん、残念ながら全作品を読めてはいないのにはひとつは彼女が非常に多作であるということが大きいけれど、もうひとつにはそういう感想を参考にして尻込みしてしまった、というのがないわけでもない。
だから本書を読み始めるときもそういう危惧がないわけではなかった。
読み始め、同じエピソードが少しずつ変えられただけで何回も繰り返される手法になっていてちょっとしつこい気がしたのでこのままだったらどうしよう、と危ぶんだ。

だが最後まで読み終えた今、大きな声で言っておきたい。
それは、杞憂だ。
読み終えた私は今、とっても清々しい。満足である。素晴らしい作品だった。面白かったし、後味も良いし、ストーリーの完成度はとても高くて美しい(いかん、誉め殺しみたくなってきた)。
確かに本書には流れる涙も、感動の咽びもないし、身を凍らせるような意外性もない。
だから、そういう大きな感情の揺れだけを期待して本書に挑んだひとのなかには不満を訴えるひとがいるかも知れない。いやでも、そのひとはおそらく途中で読むことを放棄したひとなのではないか。
最後まで読めば、この作品で著者が何を描き出そうとしたかは明らかであり、ラストの高揚感には思わず拍手をしたくなる筈だからだ。

中庭で起こった不可解な突然の死。
容疑者はみんな女優。
どこまでがお芝居でどこからが地なのか。
どこまでが脚本でどこからが地の文なのか。

同著者『チョコレート・コスモス』を読んだときの面白さとはまた全然違うのだけれど、ああいう空気を思い出すというか、つくづく、恩田陸というひとはお芝居が好きなんだなという気はした。
あと、実は読む前にこの話を芥川の「藪の中」になぞらえるコメントを目にしていて、ちょっとそういう予想もしながら読んでいったのだが、「藪の中」よりはもう少しいろんなことを明らかにしてくれてあったので欲求不満にならずに済んだ。

それにしてもこの作品の初出はケータイ文庫だそうで、'03年5月~'04年2月にかけて配信されたらしい。こんなややこしい、こんぐらがった話を携帯でちまちま読まされたら気の短い私なんぞは頭からケムリが出そうだ。
なお、著者初のエッセイである「『恐怖の報酬』日記」の中でこの作品について触れた場面があるので興味のあるかたはどうぞ。23ページ参照。「自分で書いていてなんだが、非常に複雑な話なのだ」「連載は終了したがあまりに複雑になってしまい、直すのがユウウツである」なんて書かれていて、実際実物を読み終えてみると非常にきっちり整えられているからどれくらい直されたのかなあ、実はそんなに直さなくてもわりと完璧だったのかもね、などとあれこれ考えるのも悪くない。