2008/01/13

かもめ食堂 【映画版】

かもめ食堂 [DVD]
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バップ (2006-09-27)
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■監督;荻上直子
某食パンのCMで店の内装を見て好奇心をそそられていた映画、本当に久々にDVDを購入した。
原作に、群ようこの同タイトルの書籍があることは知っていて、群さんが作って女優さんが小林聡美さんでフィンランドが舞台であの食堂なんだったら絶対好きだろうなとは思っていたが実際観てみたら本当に好きだった。
後で小説の方を読んだら全然作品世界の雰囲気が違うのに登場人物の設定は女優さんを意識したものというのがありありとわかる描写で、不思議に思っていろいろ調べてみたのだがそもそもこれはまず小説ありき、ではなくてまず映画の企画ありきの話だったようだ。(ついでにインタビュー記事などを読むとどうも企画者の意図に思いっきり嵌められてしまったんだなというのが明らかになって苦笑するしかないのだがまあいいさ、良かったんだから。)

この映画を見ていちばん考えたことはあまりにもいろんなことが不明なままである、にも拘わらず作品がきちんと成立していてメッセージも伝わってくる、という不思議さについてだった。

なぜ主人公が食堂をやっているのか、その資金はどのようにして得たのか、前は何をやっていたのか、そもそも何故、フィンランドなのか。
お茶らけた台詞で語られはするものの、本当のことはついに映画上ではわからないままだ。
主人公だけではなく、他の主要人物のバックボーンも同様である。

わからない。なにもかもが、わからない。
でも、サチエがきっちり地に足をつけた生活をしているひとだっていうことや、ミドリが何かを斬り捨てざるを得なくて振り切るようにフィンランドに来たんだってことや、マサコがどんなにか鬱屈したものを抱え込んで苦しんでいるかということはひしひしと伝わってくる。そこにそういうひとがいるんだということは有無を言わせぬ説得力で伝わってくる。彼女たちのポリシー、ひいてはこの映画のポリシーが何であるかは疑いようもない。
私はこの世界が好きである。心をつかまれた。良いなあ、としみじみした。
これが映画、映像というものの持つ力なのだろうか。
映画というものは詳細を詰め込んで伝えるというものではないんだなあ、というようなことをぼんやりと思った。

壁がかわいいガラスがかわいい植物が食器が机が椅子が服が町が……出てくるいろんなモノたちの形状及び色彩にくらくらする。うっとりする。さすがフィンランド。

小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ、という女優がもんのすごく自然に「生活」を表現している。特にもたいさんなど、ただ立っているだけなのに凄い。おかしかったり、悲しかったりを立っているだけで表現している。

私は映画や俳優音痴なので、彼女たちの存在は知っていても詳細は知らなかった。この映画を見て、片桐はいりが演じているミドリはまだ若い、不安定でパワフルな年代の女性だとばかり思っていたので女優さんの年齢を知ってびっくりした。原作を読んでミドリは片桐さんと同世代の年齢設定であることを知ってのけぞった。映画と小説は別だと私としては解釈することで決着をつけた。

裏事情を説明をしない。はっきりした原因を語らない。それなりにいろんな人が出てきていろんな出来事があるのだが明確な輪郭を与えない。そういうふうに意図的に作ってある映画のようである。後で小説版を読むときっちり設定があるしいろんなことが書いてある。

「ジャガイモと、牛肉と、糸こんにゃくを使って、メインの料理を作ってください。ただし、副菜や汁物をどうするかはおまかせします。材料は何でもそろえます。」
そう言われて二人の人間がそれぞれ別に夕食を作ったらメイン料理は「肉じゃが」になるだろう、それは同じだろう、でも味付けも違うだろうし他に持ってくるものも違うだろう。
映画「かもめ食堂」と小説「かもめ食堂」を例えるならばそういう感じかな。