2007/11/09

東京大学応援部物語

東京大学応援部物語 (新潮文庫 さ 53-4)
最相 葉月
新潮社 (2007/10)
売り上げランキング: 47267

■最相葉月
「応援部」と聞いてまず頭に浮かぶのは夏の甲子園である。白球を追いかける球児も熱い青春だなあと思うが、アルプスで一般生徒の前に立ち、学ランを着込み白手袋に鉢巻姿で音頭をとる彼らの姿もまた負けず劣らず熱い。軽やかなミニ・スカートで笑顔を絶やさずポンポンを振るチア・リーダーたちも然り。そこに統制と、様式美と、そして漠然とだが何かしら爽やかで純粋な情熱を感じるのはいささか感傷に過ぎた見方なのだろうか。ともかく、制服姿でメガホンを振る生徒たちと彼らが一線を画していることは間違いないだろう。

最相葉月の文庫が出る、そのタイトルは『東京大学応援部物語』である、とネットの新刊案内一覧表の中で見つけたときに私の頭の中を過ぎったイメージはだから基本がそれであった。高校生ではなくて大学生、しかも東大、ということでそれに「頭はいいけど」「華やかではない」「地味な」というイメージが付け加えられた。大学生でスポーツ絡みというと三浦しをん『風が強く吹いている』が大当たりだったこともあり、期待が持てる。「物語」ということはひょっとして小説なんだろうか? とも思った。どちらにせよ、著者が最相さんなんだから、と書店に行って実物を見たら帯をその三浦しをんが書いていたので笑ってしまった。小説はなく、やはりルポであった。

しかし、実際読み始めると予想外に暗いのである。暗いというか、苦悩している。誰が?――その、東京大学の応援部の学生が。そして、最相さんもなんだか彼らに対してキョリを置いている。批判的?とすら読める箇所もあった。
東大の応援部は熱くはなかった。ぬるいわけではない。あえて言うなら「極寒」なのだ。練習は文字通り血の滲むようなもの、規律は厳しく上下関係は絶対で、その業務は多忙を極め授業に出ることすらままならない。生活に密着しているというか生活を侵略している。前時代、という言葉が浮かぶ。何故そこまでして、と思ってしまう。

しかし彼らから受ける印象が「熱く」ないのはそれがためではなかった。苦悩していているのはその過酷な状況ゆえにではなかった。要は、主な応援対象である東大野球部が連戦連敗していたからである。ただ負けるのではなくてもう致命的に、一方的に弱かったからである。(他にもスポーツ部はあるはずだけど本書では野球が中心に描かれていた)。
勝ったり負けたりの野球部であったならば、一球一球に固唾を呑んで試合の行方を見守るような野球部であったならば応援する方のモチベーションも上がるであろう。早稲田のような花形であれば応援部だって鼻が高かろう。だが、東大野球部はそうではなかった。10点以上差を付けられ、こてんぱんにやられる試合ばかりが続き、応援部の必死さは「浮いた」。同じ大学の学生たちからも「自己満足」「周りが見えていないのでは」といった冷ややかな視線が飛んだ。
なんのために応援するのか。
応援部の存在意義はどこにあるのか。
こんなにも苦労をしてまで自分が応援部にいることの意味は。
彼らは、そこで悩んでいた。もちろん、最相さんが問えば答えは返ってくる。さすがに東大生だけあって、自己批判・自己分析も出来ている。だけど、その答えに著者は満足しない。納得しない。何故そんな答えなのだ、という目を向けている。
応援部の実態を読んで知るにつれ、私も「何故」という思いは強くなった。彼らの言葉に違和感を覚えた。だから、中盤から登場する応援部から脱落したある学生にスポットが当てられたとき、そこではじめて共感らしきものを味わった。そして同時に本書をドラマチックにするポイントは彼なのだな、とやや醒めた感情を抱いた。

悩み、挫折し、逃げる彼。それと平行して書かれるのが東大野球部の初勝利である。勝って、初めてその喜びを、「応援し甲斐」を味わう東大応援部。著者はここぞとばかりに彼らに問い掛ける。その答えはどうやら彼女の望んでいたものらしかった。が、私としてはやっぱり違和感があった。逃げている部員のことが気になった。
結論を言えば本書を読んで心の底からの共感、というものはとうとう得られなかった。異なる文化があり、そこに生きるひとがいるんだな、という感じである。

東京大学応援部物語なお、本書の取材が行われたのは平成14年のことであったが、文庫が出る平成19年の今の東大応援部は既にしてかつての空気は崩壊しているとのこと。また、14年の時点でその兆しはあり、この応援部のこの世界はある意味ファンタジーであるとすら思える、と最相さんは書いていた。だからタイトルが「物語」なんだなと納得ができる。単行本の表紙はこういうの。ポップなイラストである文庫版との雰囲気の違いがなんだかいろんなことを象徴しているかのように思えてしまう。