2007/10/07

鉄塔武蔵野線 

鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)
銀林 みのる
ソフトバンククリエイティブ
売り上げランキング: 379,926


■銀林みのる
このあいだ「本の雑誌」でも「あの作家はいま?」みたいな特集で取り上げられていた幻の作品が10年ぶりに文庫化された、ってんで読んでみた。
10年前話題になったことは覚えている。「鉄塔」をメインに扱った、なんとも変な話が本になったぞ、てなもんであったと思う。

まず本書を開いてみるとちょっと驚かされる、いきなり鉄塔の(しかもなんかあんまり見たことのない変わった)写真。そのままぱらぱらぱら~と中を改めるといけどもいけども鉄塔の写真が半分は埋まっている。なんだこれ、すげぇなあ。

びっくりしながらさて本文を読み始めていきなりつまづいてしまった。小学5年生の少年の視点で描かれる鉄塔小説の一人称が「わたし」。しかも「ですます調」。
……うーむなんで「僕」じゃないんだろうそれにですます調の小説って合うときは合うけど一種冒険というか冗長的になりがちというか……。

なにはともあれ、ずんずん読み進むとなかなか良い。それが予期していた鉄塔が良いんじゃなくて、「少年」の描き方が。
子どもってこうだよなあ~!
というのをしみじみと噛み締めさせる、あのわけのわからないこだわり(自分ルールというらしい)、冒険心探究心好奇心、プライド。
子どもらしさは微笑ましいものばかりではなくて実はずるかったり悪かったりイロイロ美しくないのが実態だったりする、それをかなりリアルに書いてあるのに感心した。
ですます調だから一歩引いた感じなのが良いのか悪いのか判断に苦しむんだが……。

肝心の「鉄塔」であるが。
まず私も子どものときに鉄塔の側まで行ってみたことはある、で、著者のいう「結界」内をしげしげと観察して、やたらしっかりボルトが止めてあることなど、見れば見るほどデカイ建造物で重要な任務を負っているであろうこと、でもそのわりに存在そのものが空気化していること、などを感じ取ったものである。
しかしそこに線ごとの名称と番号が振られていることまでは気が付かなかったなあ。気付いていたら、必ず何かしらの感動は味わっていたと思うんだが。

この話の主人公はそのことに気が付いて、じゃあ、その番号の前とか後ろはどこにあるんだ? というか番号を辿っていって、「1」に着いたらそこには何があるんだ?
ということを思いつき、思いついただけじゃなくて実際に探しに行ってしまう。でも小学生だから移動手段やなんやらに制限があり過ぎて、そんでまあ、物語になるわけだが。

……正直ちょっとマニアック過ぎというかこのテーマでこの単調さでこのページ数は長過ぎという感じで、正直途中だいぶナナメに流してしまった。変化を与えようとエピソードをちょこちょこ挟まれている著者の努力はわかるんだが……なんせ著者ほど「鉄塔」に愛着がない飽きっぽいダメ読者にはちと辛かったというか……。

なお、本書は単行本化のときも新潮文庫化のときも成し得なかった、著者の使いたい写真を全部掲載する、という快挙を達成した<完全版>であるそうだ。
挟まれた地図もなんだか楽しい。
ソフトバンク文庫さんの心意気が伝わってくる830円だ。