2007/10/28

ゲイルズバーグの春を愛す

ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)
ジャック・フィニイ
早川書房
売り上げランキング: 24,655
■ジャック・フィニイ
これも『たったひとつの冴えたやりかた』と同様、頭の隅本だった。前者が私にとっては期待はずれだったのでこれもかなあと危ぶんだが、どうしてどうして。
10の短篇が入っているのだが、表題作である1篇目の仕組みがわかったとき、「おおっ、これは好きな世界だ!」と嬉しくなったものだが、続くどの話も期待を裏切らなかった。

ジャック・フィニイの書く小説をSF、ミステリー、ファンタジーとジャンル付けすることは解説氏が「あまり意味がないかもしれません」と書いておられるとおり、大変難しい。
この短篇集はハヤカワの「FT」に区分されていることからもわかるようにファンタジー色が強いというふうにも読めるが、しかしファンタジーの括りにしばってしまうのもなんだか勿体無い気がする。
ともかく、ノスタルジックなこと、不思議なこと、昔の古い町並み、骨董品、そういったものが好きな方にはしみじみと心に染み入るものがあると思う。
以下ざっと感想をば。

「ゲイルズバーグの春を愛す」
古く、美しく、伝統ある町。
ある方向に状況が向かうと不思議な出来事が起こる。
出だしはどういう話かつかめなかったけれども読み進むうちに興奮してきた。この町が見てみたい。
「悪の魔力」
”かけると服が透けて見える眼鏡”という古典的ネタにここで出会うとは……。
「クルーエット夫妻の家」
これも出だしはどこに向かうのかと思ったが主題がわかった途端大好きになった。「家」というものの持つ力。
「おい、こっちをむけ!」
この話のオチは作家だから書ける話なんじゃないか、とちょっと思った。キンジェリーになんの魅力も感じられなかったのがなあ。
「もう一人の大統領候補」
どういう話なんだろうと読んでいって最後の最後でははあ、と。良く出来たショート・ショートの趣だ。
「独房ファンタジア」
まるでブラッドベリのSFを読んでいるかのようなシチュエーション。もっと大胆不敵な展開になるかと思ったがわりとぼかしてあるというかそこまでは踏み込まずにブレーキが掛けてある。日本の子どもは”どこでもドア”で育ってるからなあ。
「時に境界なし」
過去の任意の地点に人間を送りつけられるシステムを開発した学者と刑事の話。刑事がなんでこんなキ○ガイなのかよくわからんがこれもショート・ショートっぽい話。
「大胆不敵な気球乗り」
気球を作ってみて乗ってみて。という話。夜のほうが飛びやすいし騒がれにくいっていうのはわかるんだけど、昼間の眺望の良さは捨てがたいんじゃないかなあとちょっとだけ思った。今一歩何かが共感に欠ける。
「コイン・コレクション」
男性には頷くところ多い話というか男性ドリームかな。いや女性もこういう願望はあるのかも知れない。ある地点であちらを選んでいたら……というのをもし随意に体験できたら?という話。
「愛の手紙」
骨董品にはある種の魔法が期待できてしまう。なんとなく、1篇目の世界と同じものを感じる。古い机の隠し引き出しからラブ・レターが出てきて主人公はそれに返事を書くのだが、なんとそれが相手に届くのだ!
このカラクリを愛せるひとはジャック・フィニイが好きであろう。