2007/10/21

あしたはアルプスを歩こう

あしたはアルプスを歩こう (講談社文庫)
角田 光代
講談社 (2007/07/14)
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■角田光代
このエッセイは2004年1月に放映されたNHKBS2の「トレッキング・エッセイ紀行 岩稜と氷雪の彼方に イタリア・ドロミテ」という番組制作とセットで出された企画ものだそうである。単行本は『あしたはドロミテを歩こう』というタイトルで出版された。
あしたはドロミテを歩こう―イタリア・アルプス・トレッキング

140ページ弱の薄い本で、「直木賞受賞女流作家」が「初めてアルプスでトレッキングをしたぜ」という珍しくて割とお金もかかっていそうな企画なのにすごくあっさりとしているなあ、というのが正直な感想だ。いやこれはこれで良いんだけど、もったいないっていうか。もっとじっくりあれこれ周辺事情とか、角田さんの思いとかいっぱい語ってくれちゃっても楽しかったんじゃないかなあって思ってしまうだけで。まあ一読者の勝手な希望なんだけど。

トレッキングというのが何か、というのは私も冒頭の角田さんと同様、なーんにも知らなかった。というか、「トレッキング」という言葉すらも頭の中になかった。
ふだん特に山登りとか運動とかしているわけでもなさそうな角田さんがあれよあれよというまに雪の積もった険しい山まで連れていかれて「何かへんだ」とアタマの中で繰り返し疑問符をいっぱい浮かべながら、それでも周囲のスタッフや現地の案内人らとすんなり溶け込み、とりあえず目の前の歩くことに集中していくことでいろいろすごく大変そうな場面を結構あっさりとこなしていってしまう感じなのがすごいなあというかたくましいなあ、というか。

内心をエッセイでは子どもっぽく茶目っ気めかして書いておられるけれど実際にオモテから見ると総合的にその言動は知的で落ち着いていて大人、だと思う。

それにしても現地のガイドさんはルイージ・マリオさんという名前で、スーパーマリオで遊んだことのある人間はたぶんみんな笑いたくなるような名前なのだが、65歳でイタリア人で日本で仏教を学んだ僧侶というこの方と角田さんの会話が非常に興味深い。
角田さんはマリオさんの人間的器の広さ、その生き方に深く感銘を受けられたというのがびしばし伝わってくるけれど、それを引き出す角田さんの素朴で素直なてらわない質問というのもまた素晴らしかったのだ。

最初のほうで角田さんが
「あのう、どこにいくんでしょう」
と質問するシーンがあるのだけれど、ここでまず驚いたというかすごいなと。
私はあの場面でこういうことを疑問に思っているはずだけどでも口に出しては訊けないんじゃないか、と思ったから。

角田さんてどういうひとなのか、小説とはまた違う一面を少しだけ見られたような気がした。

解説は我らが三浦しをん氏!
しをんちゃんも同じ番組の同じスタッフでバリの山を登ったということだ。彼女のトレッキング模様もそのうちエッセイにしてくださるのだろうか。
楽しみだー。