2007/08/05

停電の夜に

停電の夜に
停電の夜に
posted with amazlet on 07.08.04
ジュンパ ラヒリ Jhumpa Lahiri 小川 高義
新潮社 (2003/02)
売り上げランキング: 686

■ジュンパ・ラヒリ
素晴らしかった……。
読み終わって、最後のページを閉じて、心の中でbravo!と呟いてしまった、ああ、しみじみと、良い。
平成12年に新潮クレストブックスで出て15年に文庫入りした本書については書評や「夏100」などでちらちら目にして頭の片隅にずっと引っかかってはいたものの目先の読書にとらわれて今までご縁が無かったもの、先日ふいと店頭にあるのが目に留まってそのまますいと引き寄せられた。
ジュンパ・ラヒリさん。耳になじみの無い音の名を持つ彼女は生まれはロンドン、育ちはアメリカはロードアイランド州だがご両親がカルカッタ出身のベンガル人とのこと、本書でもインド系出身作家ならではの作品がいくつか読める。

「停電の夜に」
5日間だけ、工事のため毎夜1時間電気が止まることになった。妻の死産以来冷え切っていた夫婦はその停電の間にひとつずつ打ち明け話をすることにする……。
夫婦というものについてずしーんときた。人の心は本当に一筋縄ではない。
「ピルザダさんが食事に来たころ」
1971年当時の話。ピルザダさんは単身、ダッカからアメリカに調査のために来ていた。家族を残して。幼い私の視線を通して、ピルザダさんの思いが深々と伝わってきて、堪らない。また、最後の私の行動を読んで「ああ、巧いなあ」としみじみした。
「病気の通訳」
まあこういうことはわからんでもない。言葉の通訳、心の通訳。人生は通訳を誤ることの連続かもしれない。
「本物の門番」
ええっ。という最後の展開、これがインドなのか。「流し」云々のエピソードもインドならではなのでは。
「セクシー」
男と女の話。主人公の内面が必要最低限、あっさりと書いてあるのだけれどもその微妙な心の変化は見事に描かれている。
「セン夫人の家」
インド系の夫人に預けられた少年の目を通して描かれた話。保育所とかの個人版、アメリカではよくあるのかな。異文化の中で溶け込めない夫人の心細さ、苛立ち、やるせなさがすごくよく伝わってくる。
「神の恵みの家」
ヒンドゥー今日の夫婦が住むことになった家からはあちこちからキリスト教がらみの品物が出てきた。掘り出し物だと喜ぶ妻を忌々しく眺める夫の話。最後の展開に筆者のシニカルな視点の鋭さを感じた。
「ビビ・ハルダーの治療」
これもインドの話で「本物の門番」みたいな話になるのか危ぶんでいた。たくましい。
「三度目で最後の大陸」
この話が一番良かった。
インド出身の主人公はイギリスのロンドン大で学び、やがてアメリカから仕事の口がかかって単身渡米した。その直前にカルカッタに飛び、親の決めた女と結婚の儀を済ませた。
アメリカで仕事をしながらしばらく単身である家に下宿をする。その家の女主人はなんと103歳だった……!
この老婦人とのやりとり、そしてやがてやってくるまだ他人としか思えない妻と夫婦になっていく過程が短い紙数の上に描かれるのだがこれが上手いのなんの……。すごく良い。とてもこのページ数とは思えない広がりがあって、胸に迫る。しみじみと考えさせられる。ああ良いものを読めた。幸せだ。

淡々とした語り口、静かな作品世界、ずしーんと響く内容。
何故今まで読まなかったんだろうとも思い、いや7年前より今読んだからこそ良かったのだとも思った。