2007/07/13

俳風三麗花

俳風三麗花
俳風三麗花
posted with amazlet on 07.07.12
三田 完
文藝春秋 (2007/04)
売り上げランキング: 71656

■三田完
先日直木賞候補作が7点も挙がっていたが今回印象が大人しいなあ。存外に新しいひとのもあってびっくり。今回は北村薫か松井今朝子かな?

数日振りに書店に寄ったら小さな店なのに単行本の棚1段を使って直木賞候補作コーナーが設けられていた。並べられたそれぞれの前に書店員さん手書きによるポップにコメントが細かい字で5,6行綴られている。うう、良いなあこういうの。ちらりと目を通したがどれも好意的な内容のようで、ネットなどの書評とはまた違った雰囲気が微笑ましい。

お祭り気分に乗っかって、どれか読んでみることにする。畠中さんは好きだけど文庫で読んでいくことにしている。松井さんが気になったが冒頭やアラスジを見るになんとなく今一歩興が乗らない。結局「本邦初の句会小説」で時代設定が昭和初期という私好みだったことに加えてまだ初版で装丁もカッコよいこの作品を手に取った。冒頭を読んでみると癖がなくてすんなりしている。良いかも知れない。

「句会小説」って言っても小説書きと発句はまた全然違うものである。だから、それはほんの「お飾り」程度で、要はそこを舞台にした空気を使いたいんでしょ、と読む前に想像していたのだが実際読んでみるとそれは嬉しいほうに裏切られた。なかなかどうして、しっかりとした俳句がいくつも繰り出されてくるのである。お題が出て、テーマを考え、ああでもないこうでもないと推敲していく過程も丁寧に描かれている。面白い……。発句好きにはたまらない臨場感がある。

この小説は俳句や句会についてまったくの白紙でも楽しく読めるだろうけれど、多少予備知識があった方がよりすんなり溶け込めると思う。そういう意味で、以前に小林恭二の『短歌パラダイス――歌合二十四番勝負』『俳句という愉しみ――句会の醍醐味』(共に岩波新書)を読んであったことは非常に助けになった。

昭和7年、東京日暮里で定期的に開かれる句会。そこに参加する3人の娘、それぞれの視点からちょっと前のにっぽんの日々の暮らしが垣間見られる。
中でも、それぞれが俳句をひねるその過程の違いを書いてくれてあり、大変興味深かった。それぞれの境遇や心の動きもわかるから、ひとつの言葉にもぐんと重みが感じられるのだ。

年配の男性がこういう清々しい若い娘を書く、この雰囲気は何となく北村薫を思い出させ、この年頃の娘というのはもう少し複雑な心模様を抱いているものじゃないかなあとちょっぴり皮肉に考えたりもしたけれども、でも読んでいて素直に心持ちが良いし、好感が持てる。

長篇ではなく5つの連作で成り立っている本書だけれど、初めての作家ゆえどう転ぶかわからないひやひやもないでもなかったのだが最初の話を読み終える頃にはすっかり安心し、最後まですいすいと読み進むことができた。尤も、「冬薔薇」は違う意味でハラハラし、すっかり語り手に同情してしまったが。

大学教授の父と一緒に句会に参加していたがその父が急死してしまい、その遺志を継ぐ意もあってますます発句に精進したいところのたおやかなお嬢さん、ちゑ。
句会主催者の教え子で女子医学生、ハイカラで聡明な壽子。
浅草芸者で気風の良い姐御肌、松太郎。
表題どおりの麗しい花たちの涼やかなくるくる変わる表情を追っていくのが実に愉快で、なんだかほんわかして愉しい気持ちになれて、ああ良い小説を読んだなあ、と嬉しくなった。

装丁は宇野亜喜良。やったっ! このカバーの紙の風合いと帯がややレトロチックなのがモダンでおしゃれで、本書購入の動機のひとつになったことは確か。くふふ。