2007/07/22

破獄

破獄 (新潮文庫)
破獄 (新潮文庫)
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吉村 昭
新潮社
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■吉村昭
初吉村昭。なんか堅苦しくて重そうなイメージがあったので今までご縁がなかったのだが、夏の100冊コーナーに並んでいたのでふと手にとってみた。何度も脱獄を繰り返した囚人の話ということで、とっつきやすそうなテーマに興味を惹かれた。

最初の30ページくらいを読んで、なんだかルポ風というか、出てくる人々の感情面の書き込みが異様に少ないので、どこから所謂小説らしい展開になるのだろうかとウィキペディアで調べてみたら吉村昭とはまさにそういう作風とのこと。なるほど。後は割り切ってずんずん読んでいく。
どちらかといえば小説らしい小説が好きなので退屈するのではという危惧がないでもなかったのだが意外にこれが面白い。文章もいいのかな。著者の余計な憶測や感傷が混じっていないということでこちらもクールに読めるというか。潔い清々しさ。

昭和11年青森刑務所、17年秋田刑務所、19年には不可能といわれた網走刑務所を脱獄した無期刑囚佐久間は嘲笑うように昭和22年札幌刑務所も脱獄する。4度のそれは犯罪史上未曾有であり、その超人的かつ天才的な手口は当時の社会でもなかば英雄視されるほどであったようだ。強盗殺人の犯人を何故英雄視するのかちょっと理解に苦しむが。

何故何度も脱獄するのか、寒さに耐え切れなかったからだとか看守の扱いに腹が立ったからだとか書いてあるけれども結局究極の理由は彼にとって檻が檻に見えなかったから出た、んだと思う。
それにしてもどうして同じパターンの手口なのに4度も脱獄を許してしまうのか、そのへんは小説として名探偵ものミステリーなどに普段親しんでいる読者には歯痒く感じる面なきにしもあらずだ。だが、得てして現実とはそういうものなのではあるまいか。まして戦前戦中といった時代だ。現代ではこんな不手際はないんだろうと信じたい。

最後の府中刑務所での展開は「北風と太陽ということか」と思ったが、それは穿った見方に過ぎず、やはり佐久間の「もう疲れましたよ」という台詞が全てを表わしていると解釈したほうが正しいのだろう。
読売文学賞受賞作。