2005/12/19

風味絶佳

4163239308風味絶佳
山田 詠美

文藝春秋 2005-05-15
売り上げランキング : 3,854

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

■山田詠美
短編集。
3つのお話を読み終えて「まー今日はこのくらいにしとこうか」と思ったのだがヒマだったので4編目を読んでみたらそれが素晴らしく面白く、とても短篇とは思えない世界の広がりを感じ、驚愕した。残り2篇となったのでズルズル置いておくのもなんだし、と続きも読んで了。

「本の雑誌」が選ぶ今年のベスト1位に輝いた作品で、社員の皆様の熱いお言葉に動かされ、何度も触れている『読むのが怖い!』の今年度版で高橋氏も斎藤氏も褒めていたこともあり、読んでみることにした。私は北上次郎のいう山田詠美の「良い読者ではない」。読んだことがあるのは『ぼくは勉強ができない』ただ一作で、しかもそれは10代の頃に読んだっきり。すごく上手な作家さんだという認識はあるがどういう作風だとかいうのはだいたい知っていて、あんまり趣味に合わないから読まないのだ。

『風味絶佳』は装丁がすごく可愛くて、まるで森永製菓のキャラメルの箱のよう。大きいカバーを外すと中はキャラメル。全部のカバーを外して裏を見るとカブトムシとアリがいる遊び心も楽しい。

肝心の中身、皆さんが口を極めて「文体」を褒め上げていたのでいったいどれほど前衛的な?と想像していたらそういう「みえみえ」なのではなく、するするするーっ、と体に染み込んでくる実に自然な、どこにも引っかかりの無い、研ぎ澄まされた日本語であったのでものすごくすんなりと「詠美ワールド」に引き込まれていた。巧い。やっぱ、巧い。しかも、職人技なんだろう、このテク。

お話のテーマはイメージ通りの詠美さんで、色っぽく、かっこよく、「姐御肌」なのだった。作品によって好き嫌いはあったが、問答無用でやはり先ほども触れた第4話「海の庭」。わずか38ページの作品なのだが思わずそれを確認せずにはいられない深みがあって、しみじみ、してしまった。なんていえばいいんだろう、物語の背景っていうのか?うーん。うまく表せないけど、すごくいい。

この6篇に出てくるひとはサラリーマンとかじゃなくて著者曰く「肉体の技術をなりわいとする人々」を描いてある。一瞬「風俗の話かなあ」と思ったんだけど、違った。そして、読んでみるとその要素がほとんど特殊性として目立たないことに驚いた。要するに著者がそこをクローズアップしたいわけではなく、ちゃんと咀嚼して、呑み込んで、それからもう一度身体から出して書いているからなのだろう。

「海の庭」の冒頭。とってもきれいで、登場人物の関係がすごくよく表されている。そして次への興味も引き立てられる。素晴らしい。

 鳳仙花で爪を染めていたよね、と作並くんが言えば、実がはじけて種が飛び散るのを待っていたわね、と母が続ける。白粉花の蜜を吸ったのを覚えている? と彼女が尋ねれば、甘過ぎて気持が悪くなっただけ、と彼は思い出して笑う。露草を洗面器の水の中でつぶして色水を作った時には、と彼が見詰めれば、コップに入れて乾杯をした、と彼女は見詰め返す。それ、飲んじゃったの? と私が口をはさんだら、二人は同時に、飲まないままだった、と呟いた。