2005/04/30

重力ピエロ

重力ピエロ
伊坂 幸太郎
新潮社 2003-04


by G-Tools

■伊坂幸太郎
この小説は担当編集者が「小説、まだまだいけるじゃん!」と帯にコメントを寄せたという、なんとも素晴らしいエピソードをもつ作品であり(本読みならば誰しもそういう作品を一番早く読める立場というのに憧れますよね)、ミステリーファン以外からも絶賛され、伊坂ブームの発端となった作品でもある。

タイトルからして巧い。一度聞いたら忘れられない。「重力」も「ピエロ」も普通の、使い古された単語。だけどこの二つをくっつけて使うとなんて新しいんだ!よく思いついたなあ。すごいなあ。

どうやら「胃逆様」の小説には「ちょっとそこらにはいないような魅力をもつ青年」が一人は出てくる傾向があるようだが、この小説では主人公の弟「春」がそう。常識にとらわれず、でも人間らしい常識を愛し、行動する春。その精神は、どこか、危ういような感じがあって、兄はいつもハラハラしたり、驚いたり、している。年の近い男兄弟にしては異常と思えるほど仲が良いのだが、それは春のバックボーンを考えて読むとなんだかすごく切ないような美しさだと思う。彼らの父親とのやりとりも異常なほど仲が良くて世代間のギャップなんか微塵もなくて、青年と弟と父親の蜜月を描いた小説、という言い方を思いついてしまったくらいだ。リアリティはともかく、読んでいて心地良い。

町で繰り返し起きる放火事件。それとその近くに必ず書かれている英語の落書き。その関連性に春が気付き、兄と父を巻き込んで推理ゴッコを始めるところから小説は転がって行く。そして、途中から多くの読者が(明白なある事実に)「なんでこの兄は気付かないのか」と思い始めるだろうが、それを踏み台にして更にちょっと意外な出来事へ転がり、そして思わぬ方向からイキナリ「わっ」と驚かされ、「そういえば最初のほうで伏線が書いてあったな」と呆然としているうちに物語は美しい終焉に向かっていく……ネタバレしないようにボカして流れをまとめるとこういう感じだろうか。

主軸である事件の話もミステリーとしてきちんとしていてよいのだけれど、それ以上に面白いのが時々回想シーンも含めて語られる春の奇行伝説(?)や、ストーカーの夏子さんの話。「未来から来たヒトごっこ」のエピソードなんか最高だ。また、『オーデュボンの祈り』の主人公の青年が脇役で登場したので、ニヤリとしてしまった。