2003/06/09

朗読者

朗読者
ベルンハルト シュリンク Bernhard Schlink 松永 美穂
新潮社 2003-05


by G-Tools

■ベルンハルト・シュリンク
単行本で随分話題になって色んなヒトが褒めている小説が文庫になったのを買ってあったのを読みました。泣くハナシらしいので外で読むのは危険かなと、家で読書。案外短いお話なので短時間で読めます。結論としては泣かなかったしウルッとさえこなかったんですけど。なんていうか、そういう爆発的な感情の揺さぶりはなかった(私にとっては)。ヒトによってはかなり泣くハナシらしいですが。帯にも「大感動、大絶賛」とあるし。

どういうハナシかさわりだけ書きますと、語り手は過去を振り返って語っている男性(おそらくは50歳以上であろう)。彼が15歳のときに出会い、恋をした20歳くらい年上の女性についての物語。物語は始終語り手からの冷静な視線によって紡がれ、そこに憶測や不必要な感情移入の表現はみられない。いくらでも想像をたくましくすることは可能であり、ひたすらロマンチックに感情過多に描けるテーマであるのに、あえてそれをいっさいせず、あくまで静かに、事実と語り手の感想だけが書かれている。しかしクールだとか、非情というわけではなく、そこから主人公の切実な想いやどれだけの苦しみや悩みを越えてきたのかということはしっかりと伝わってくる。「よくぞ、ここまで静かな感情に描けたものだ!」と驚いてしまう。

これはただの歳の差カップルの恋愛小説ではありません。むしろ、それがある種の「終わり」を告げたところから新しい物語が始まり、もっと大きな意味での「愛」を問い掛けてくる物語であると思う。そして、もうひとつの大きなテーマ。裁判での、問題の女性の描き方にはある種すごいものがあると思いました。そして、その後の展開のある一文に、久々に心の底からショックを受けました。時間をおいて、もう一度読み直したい一作です。