2003/03/24

手紙

手紙
東野 圭吾
毎日新聞社 2003-03


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■東野圭吾
すごかった。『百夜行』とかもすごかったけど、それとはまた違う凄さだった。また新たな挑戦をされたというか一皮剥けたというか、とにかく、読みながら心が波打って泣きたくなるけど泣けない、息を詰めて読んでしまう作品だった。

帯にもあるが、この小説は、強盗殺人を犯し、服役中である兄をもつ弟が主人公である。それいう重そうなのは敬遠しがちなのだが、書き手が東野圭吾なので手に取って冒頭を数行読んだら昨日の日記にも書いたように逃れられなくなったのだ。ダークなストーリーであろうに、冒頭の数行からそれだけでは終わらせない何かを感じたからだと思う。それに、東野圭吾はいつも読者をある意味で裏切るというか、あっと言わせるという意味で天才的だ。今度はこういうモチーフで、いったい何を見せてくれるのかという期待もあった。

具体的なことはネタバレだから書けないし、また私の下手な文章で2、3行にまとめられるものでもないと思う。――ただひとつ云えるのは、こういうと語弊があるかも知れないが、今までの東野圭吾の巧さというのはある意味様式美というか、ミステリとしての意外さとかどんでん返しのあざやかさ、構成の巧さなどが目立っていたし、またそれだけで充分すごい作家だと思っていた。今回の『手紙』だって、私が期待していたのはそのような「フィクション」としての完成度の高さだったのだ。だが、これは。

読んでいる途中、何度も衝撃を受けたし、中断するたびにあれこれ考えさせらた。特に終盤にかけての主人公の決断には胸に迫るものがあった。ものすごい大きなテーマ、人生について人間について、いやおうなしに考えさせられ、著者が提示してくる答えやケースに衝撃を受けた。もう、ミステリとか小説とかじゃなしに、心を揺さぶられっぱなしだったのである。東野圭吾がこういうのを書くか!という感じだった。中盤くらいまでは前作の経験からそういうどんでん返しなどに備えつつ読んだりしていたのだが……。なんというか「東野圭吾を読んでいる」ということをともすれば忘れそうになったというか。うまく云えないが……。

罪を犯す。その当人が手紙を書く。となるとすぐ思い出すのはさだまさしの「償い」であるが、あれとはまたケースが違う。そして出てくる解釈も違う。とりあえず、読後、しばらく感嘆のため息を何度もついて深呼吸した。涙が出そうで出なくて、かえって苦しかった。こういう問題に「正解」などない。どんな生き方が正解だなんて、いったい誰が言えるだろう。――最後のほうで、兄が書いた手紙の文句が読後、私の頭の中を回っている。今も回っている。