2003/01/31

マークスの山

マークスの山(上) 講談社文庫
高村 薫
講談社 2003-01-25


by G-Tools

■高村薫
【1日目】
なんか頭の中がヘンテコリンな人が登場人物に2人いるんですけど、その人の一人称で書かれる場面がちゃんとあるんです。そこを読んでいると、なんだかアタマの中がひっくり返りそうになります。こんなの書こうと思ったら相当大変だろうなあ~、とか思いつつ読んでいます。
この小説は「結果」を先に見せられていて、「原因」が後に出てくるタイプの小説。帯には「警察小説の金字塔」ってありますけど、それだけじゃない、もっと色んな要素があると思う。直木賞受賞作。
【2日目】
すんごく細かく捜査の模様が描いてあって面白い。きっちり取材してるなあ、という感じ。また、刑事それぞれにあだ名が付けられていて、そんな細かいところからもそれぞれの特徴や人間関係が実にうまく描いてあって、さすがだなあ、としか言いようがない。そのリアルさによって取り扱われている事件のもつある異様さが引き立ち、例の人物の背景が気になる。昭和40年代から平成まで話が及んでいるので、根が深そうだし。高村薫の警察モノだけど、公安の守備範囲ではありません。
【3日目】
なんのかんので結構人が死んでいる。しかしこの話、狙われている"お偉いさん方"の方が余程うさんくさいので同情とかあんまり湧かない。いったい彼らは昔、何をやったんだろう。どうして犯人(これはどんでん返しあるのかな~?)はこのような行動に出ているのだろう。なんだかエヴァンゲリオンみたいな世界をどうしても予想してしまうのだけど、それだったら凄いなあ……それはないかなあ。
【4日目】
読了。
感想はえー……「あれ?エヴァンゲリオンは?」ってそれはまあ冗談ですが(^_^;)。
予想していたような奇想天外な展開にはならなかったです。あくまで現実的。まー妥当なんでしょうけど、前半のアオリから相当身構えていたこちらとしてはやや肩すかし、という感なきにしもあらず。
つまり私が望んでいた展開は水沢の現在の行動の異様さの徹底的な解明で、そこにどんな非人間的な内容があるんだろう~、ということだったんですが、まあそれ書き出したらテーマが違うわな。SFの世界だ。
しかし私の望みが叶えられなかったとて、『マークスの山』が傑作であるという客観的な事実にはなんら問題を差し挟むものではないんでありまする。
よくもまあこれだけ、と唸らせる刑事の捜査の緻密さや、人間模様、組織の軋轢、個人の性癖の描きぶりは見事としか言いようが無く、ひたすら頁を繰ってしまう。たとえば、刑事同士の会話で次のようなのがある。

 「宿直、一人か」
 「いや、津村は腹痛で沈没。七社会の差し入れのにぎり飯、三つも食うから」
 「四つ食って死ね」合田は早朝の不機嫌に任せて吐き棄てた。

うあ~。
こーゆう、こーゆう会話、なんでもないようですげええええ。
このノリ、これをさらりと書けちゃうってあー。
何よりも圧巻なのがラストの数頁で、その光景のあまりの凄絶なまでの美しさに感動してしまった。うまい、うますぎる。
ちなみにこの単行本は10年前に出ているのだ。全面改稿のため、文庫化にこれだけかかったわけですね。3年もすればぼんぼん文庫になってるのが普通な世の中にこれは珍しいのでは~。