2002/12/05

夜明け前  【ご紹介文バージョン】

夜明け前 第二部(上) (岩波文庫)
■島崎藤村
これはハッキリ言って長い小説です。
しかもダラダラと平坦な歴史事実描写が続くシーンもあり、ある意味冗長的とすら言えるでしょう。

歴史上で云うといわゆる幕末から明治初期
――江戸の徳川幕府の廃退から開国、明治維新、その後の混乱期までを書いてあり、藤村はこれを武士の視点からではなく木曽路にある村落の長という「下から」の視点で書くことに意義を見出したかったようですが、勿論それだけでは大局が描けず従って神の視点からの描写も多数入り交じっています。

また「下から」と云いながらも主人公は日々の生活の安定した庄屋であり、そこには逼迫感も飢餓感もなく、どうも「お坊っちゃんの唱える理想論」という感が否めません。
視点が佐幕派でも倒幕派ともつかない人間に置かれているため、歴史小説として捉えた場合、どうしても迫力に欠けるものとなってしまっています。
ハッキリ言ってこれを歴史小説とするには物足りません。

ではどこに見所があるかというと藤村の実の父親がモデルである主人公青山半蔵の生き方になるかと思われるわけですが、これも現代の心理描写の多用された小説を読み慣れた読者にとってはいささか共感しにくいものがあるかも知れません。
非常に理想主義で真面目で勤勉であったように描かれる主人公の言動は周囲の反応から見て取るに空回りすることが多かったようです。

文庫で4冊に渡るこの小説を読み終えた感想はどこか虚しく、人に「面白いよ」と薦めるものではありませんが、現実の生活に疲れた時にはちょっと向いているかも知れません。