2002/12/29

シェエラザード

シェエラザード〈上〉
浅田 次郎
講談社 2002-12


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■浅田次郎
おもしろかった。泣かんかったけど。すごく良かった。ある1点を除けば、パーフェクトである。今まで読んだ浅田次郎作品の中ではベストワンかもしれん。

このハナシは、太平洋戦争末期に実際にあった阿波丸事件を元に書かれているそうだ。捕虜のための物資を運ぶことを軍に強いられた豪華客船「弥勒丸」が、何故沈められなければならなかったのか。弥勒丸に関わったひとびとの希望、羨望、誓い、想い、葛藤、そして――断腸の念。愛情憎しみ、人間の生死がひどく軽く扱われていた時代の、散っていった「命」、散らせたくなかった「命」。がんじがらめの中、それでも人は人を救いたいと思った。でも運命は。
――戦時中の、人々の生き様と、現代に「弥勒丸」引き上げ計画に関わることとなった数名との時間軸が入り混じって小説は進行する。

何故宗英明は弥勒丸をサルベージしようという途方も無い計画を持ちかけたのか。弥勒丸とは何だったのか。日本で、世界で、あの狂った戦争で、いったい何が起こったのか。

実は最初、戦争絡みで船が出てきて軍人が出てきてヤクザが絡む、と知って『亡国のイージス』みたいな海軍の、男の世界を描くのかしらん、と思った。でも、違った。もちろんそういう要素がないわけではないが――、この小説で最も大きなテーマは「人の生き死に」であり、それにまつわる人間の哀しさ、愛しさ、いじらしさ、なんだと思う。それと「弥勒丸」という船のもつ力。

浅田次郎の嫌な点(ハナシ作りすぎとかオヤジくさいとかヤクザ贔屓)をほとんど感じさせない、すさまじい迫力で書き尽された大作だと思う。傑作。ただひとつ、汚点があると書いたのは「久光律子」だ。有能新聞記者であり、主人公軽部の15年前の恋人であり、この事件に関わることになる女性。15年前に軽部と別れて以来、捨て鉢な人生を送り、女を棄てて仕事に生きてきたという律子はついにはずっと軽部を忘れられなくて、今も軽部を愛しているし、これからも愛しつづけるわ、みたいなことを言うんである。――浅田次郎ってそーゆうの好きやね。こういう女性がおらん、とは言わんけど、言わんけど……「ほんまにもー、この作者は男視点からみて理想的な女性しか描けんのかッ」と思わずにはいられないんである。この律子をそこまでの女に描く必要はどこにもないぞ。あるとしたら「男の夢」だけだ。んなもん、ええやん、弥勒丸の魅力だけで。ジューブンやん。

願わくば、浅田次郎に「悪女」を書いて欲しい。男が夢見ないような、すごくリアルな、東野圭吾の書くような女を書いて欲しい。――そうすれば、もう浅田次郎は何も恐いものはないはずだ。いろいろエラソーな暴言を吐いてしまったが、逆にいえばそのような些細な点が気になってしまうほど、「シェエラザード」は素晴らしい小説だったんである。はい。