2002/12/04

夜明け前  【読書日記バージョン】

夜明け前 第二部(下) (岩波文庫)
島崎 藤村
岩波書店
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■島崎藤村
※1日目
文庫で4冊。まずは『第一部 上』から。最初の30ページがけっこうキツかったです。というか、最初の3ページを読み込むのに何回文章をなぞり直したか?という感じ。目で追っただけで内容が染み込んでくるものばかり最近は読んでいたのでこういうのは久々。50ページを過ぎたあたりからようやく慣れてきて、すーっと読めるようになってきました。

時代は江戸末期、黒船(ペリー)がやってきて日本に開国をせまる頃。「きゃあ、総ちゃんの生きた時代と重なってるのね♪」などと思いつつ。坂本龍馬とか出て……こないだろーなー。出てきたら楽しいんだけど。江戸から遠く離れた木曽の宿場町(っていうのかしら?)のある有力者2軒の人々を中心に……今のところ。そこの学問好きな二十五歳の息子とかが出てきて今江戸に旅に出たところなので。まあこのへんからイロイロ怒涛の時代に生きた若者像みたいなのを描いたりするわけでしょうかと思う。文章に「~わけで。」という留め方がやたら多いのが気になる。「わけである」という表現はしないみたいですね。今のところは。ふーん……。

※2日目
引き続き、『夜明け前 第一部 上』読書中。なんていうか、現代の小説を読みなれているアタマからすると当然長々と書き込むであろう事象がすんごーくあっさり数文字で片付けられている、っていうのが多い気がする。主役級の若者に子どもが生まれただの、その若者の教え子にして隣家の息子の死だの、モノによってはそれだけでかなりのページ数を割いてもおかしくないと思うんですけど……。かと思うと「なんでこんなことをわざわざ書いてあるのかなあ」というようなこともあり。……よくわかんないなあ(^^;。とりあえず、人間の生活の細々したことを削って削って、もっとグローバルな視点で観てるのかしらん、あっ、違う、生活臭を消して学問とか思想とかを強調したいのかも。……などと、考えをめぐらせつつ読んでいます。安政の大獄とか大地震とか出てきました。これらもけっこうあっさり書かれています。これは歴史小説じゃないですからね。うーん。

※3日目
『夜明け前 第一部 上』読了、引き続き『下』読書中。要するにこの小説は幕末の動乱の時期を、木曽の街道にある宿場町をまとめていく家の若主人に視点を据えて描いてある。この若主人というのが国学を学ぶのに熱心な人であり、揺れ動く時勢のなかでじっとしている歯がゆさなども書かれている。しかし勿論、家長たる責任もあり、老いた父を置いて出ていくこともままならないわけで(出ました、藤村御用達「わけで」止め)。
つまり和宮様の御降嫁や、参勤交代制度の廃止も街道の人員の手配だとか村内のしっちゃかめっちゃかだとか、そういう視点から描かれるのです。ふーん。

池田屋事件もさらりと出てきました。「新撰組」という表記でした。なんていうかでも、思ったよりも「人間を描いていない」小説ですなあ(注、書けていない、というのとは区別してくだされ)。文体もあんまりすごいとは思えないなあ(天下の文豪つかまえて何をぬかすか、自分)。しかし幕末に興味のある人間としては読みがいがあるとも言えるかも。

※4日目
『下』読了。水戸の天狗党事件についてのあらましが結構長きに渡って詳しく書いてある。ふーん。
まあ、江戸幕府が末期にどれほど威信を失い、ボロボロになっていったか、ということですわな。木曽の宿場の人間にすら「もはや幕府は終わりだ」と思わせるまでになっているという。。。ああでもこの小説ってかなり退屈かも(笑)。同じこと書いても司馬遼太郎とかだと血沸き肉踊る、という感じがするんですけどね。藤村だもんね。大政奉還、王政復古、ええじゃないか騒動。なんていうか、「世紀末」な感じである。で、これまだあと第二部があるんですよね。――読みでがあるっちゃーあるけど、うーん。

※5日目
『夜明け前 第二部 (上)』とりあえず読了。だいぶハイスピードで。まあハナシの流れが解かればよいと割り切って。
最終巻にある解説を読んで納得したんですけど、この小説の主人公である青山半蔵っていうのは藤村の父親がモデルなんだそうです。末っ子が藤村だと。なるほど。それでこのハナシをぐだぐだ長々書いたワケが解かりました。要するに、近代文学に多く見られる「自分」のルーツをたどるっつーモチーフなんですね。そりゃ、力入るわな~。

しかし「第二部」は始まってしばらくずっと半蔵登場せず。鎖国以前から交流のあったオランダとの交渉において彼らがどのように道化役に徹したか、またそれに反して鎖国後の他国がいかに同等(あるいは高圧的な)の立場で取引に臨んだか、みたいなことがずーっと書いてある。歴史の本読んでるみたい(^^;。おんなじようなこと2回書いてあったりするし。

流れとしては、開国、江戸に残っていた徳川に縁の深い大名の立ち退き、慶喜江戸城立ち退き、遷都、江戸から東京へ、廃藩置県。それからこの小説の主人公にとって大きかったのが庄屋とかそういう今までの組織が全部廃止になったこと。代々守り継いできた、「家」の役目がと突然無くなってしまったわけです。はあ~。

村民達の主でもともと勤皇家である半蔵は新政府の誕生に深い感銘をうけ、村民達にもよりよい生活となるよう働くんだけれど、そういう「頭」で感動している半蔵なんかに反して、日々畑を耕しているような人々は「だからなんなの」というシラけた反応だったりしたようだ。このへんの様子は、なんか……わかる。何時の世も、上の考えることと下々の実感には隔たりがあるものなのねえ。

赤報隊の相良総三も出てきました。本文では「総」が「惣」になってるんですけど。相良さんが宿場を通ったときに援助金を渡したってことで半蔵は後で呼び出しを受けてお叱りを受けるのです。混乱した時勢ですねえ。とにかく、いきなり国のリーダーが変わってしまったことから生じるいろんなゴタゴタがかなり長期に渡って続いたようです。穏健派も過激派も入り混じって。藤村の筆はどうも慶喜をかばっている立場のようです。ふーん。

※6日目
『夜明け前 第2部(下)』少し読みました。半蔵の娘の嫁入りにまつわる顛末が……この小説今まで読んできた中で一番「小説的だなあ(実際にあったんだろうけど)」。盛り上がりが感じられました。これ、女性の著者だったらこれだけで一篇書けてしまうほどの出来事だと思うんですけど。歴史の流動の中で翻弄された一般市民の女性の例ってことで。なんていうか……ハラハラしました。深く深く同情も致しました。周りの反応もさもありなん。。。

※7日目
『夜明け前 第2部 (下)』読書中。おお、なんかすごいことになってきた。文庫裏のアラスジでだいぶネタバレしてるんですけど。主人公がどうやら……。でも4冊目にしていよいよ小説らしく盛り上がってきましたって感じ。

※8日目
『夜明け前第2部(下)』駆け足で読了。これはええと、文庫裏アラスジで既にバレているから書きますけど、主人公半蔵が発狂した末に亡くなってお葬式とかあって……というところまで書いて終わっていきます。何故発狂するんだろう?と思って読んでいったんですけど、スパッとした、くっきりした何か大きな出来事があったわけじゃなくって……徐々に、積もり積もった精神の鬱屈によって神経の糸が切れてしまった――という感じです。この人、真面目すぎて、純粋すぎて、理想が高すぎた、のかも知れない。あるいはちょっと融通が利かないというか。柔軟性がないというか。う~ん。。。

なんせ、書き手が実の子であり、どうも解説などから判断するに、すごく父を神聖化していたらしい藤村であるので、どこまで「事実」に迫って書いてあるかは疑問が残りますが……。とりあえず、こんな小説、今の出版事情だったら難しいんじゃないの、という。「誰も読みませんよ、そんなの」とか云われちゃうんじゃないかなあー。島崎藤村というネームバリューがあって、また雑誌連載されたのが昭和4年~10年という時代だったからこそ許された小説のような気がする。。。

これを「歴史小説」とする向きもあるみたいなんですけど、たぶん歴史ファンや歴史小説ファンにしてみれば「物足りない、書き込みが流しすぎ」という小説のような気がする。むしろこの小説は主人公青山半蔵という人物を描いたものであって、それが著者の実の父親をモデルにしてある、ということこそ注目すべきことのような気が。どうでしょう……。

小説として解かり難いのが視点が部分によって変わるというか……。半蔵の視点のレベルを超えて神の視点で歴史の流れ的なことを延々書いてある場面もあれば、半蔵の視点で細々と書いてあるところもある。藤村はこの小説を低い身分のものからみた明治開化、としたかったと語ったとあるから、そうなんだったら前者のような記述は出来るだけ止めたほうがスッきりして統一感もあったんじゃないかなあ、と思ったりして。あはは、なにさまなの私ってば(^^;。

でもでも、長すぎるんですよ~この小説。第1部と第2部で小説の目的が全然違うとも受け取れるし。ハイ。まあ。けっこう昔から気にはなっていた小説だったので、読み終えてやれやれです。