2002/08/24

理由

理由
宮部 みゆき
新潮社 2004-06-29


by G-Tools

■宮部みゆき
今回のは登場人物の誰かの視点ではなく、第三者が記録という形で記述しているという設定らしく、従って随分ひどい状況も心理描写が間接的なので『模倣犯』のような苦しみは味あわなくて済む。非常にデティールがしっかり書き込まれているので「どこまで伏線なのか」と思う。現代のマンション状況とか不況のこととか、すごく丁寧に書いてある。おもしろい。そしてリアリティーがある。

以下、宮部みゆき『火車』『理由』についてぼかしたものの、内容を推測できうる内容になっています。ご注意ください。

随分読みでがあった。書き込みがしっかりしててなおかつ読み飛ばさせない力と魅力があるからだろう。流し読みできないのだ。宮部みゆきの作品につきものの心理描写というのは今回はルポの形を取っているため少なめなのだが、彼らの発言を順に追っていくこと、またそれらの聞き手の追求方法によって、まごうことなき「ミヤベ流人間観察」が描かれている。
この話は宮部みゆきの他作品では『火車』が近い雰囲気をもっているように思う。「真実」への追究、それにともなうサスペンス感、そして「真実」とはいったい何だろうかと語りかけるような切迫感。人間を、犯罪を描くことで社会の断面を鮮やかに描き出してみせ、その問題や矛盾点を読み手に畳み掛けて染み込ませるテクニックの妙。そしてそこに宮部みゆきならではの「視点の暖かさ」が伴っているからこその、読後の充実感。
この小説は単行本出版時からずっと気にしていたし、直木賞受賞作とあって、帯の「一家四人殺しはなぜ起こったのか」という文句は私の意識に刻み込まれていた。自然、いざ読む段になってもそのことをずっと考えつづけることになった。そして読了した今、私はいまだにその答えを見つけられていない自分にいささか戸惑っている。何故著者はこのテーマをこの視点で描いたのか、何故犯人の内面をあえて掘り下げなかったのか、何故あのラストなのか――。
図らずも先程挙げた『火車』のヒロインが最後まで姿を表さないことで小説としての深みを得たことと同様、あえて「明確な解答を避けた」ことで逆に著者はテーマの深遠さを我々読者に突きつけたと言えるのかもしれない。そして、その答えの一部は、後日書かれる同著者の『模倣犯』に見られる、そんな気がする。

⇒追記
もう少し書きます。
この小説で描かれる「事件そのもの」は、要するに誰かによって四人が殺された、犯人は誰で、どういう理由でか――というだけの単純な事件である。しかし、事件を第三者のルポとして描き出すことによって、「ひとつの事件にどれだけの人間が絡んでいるものなのか」という、俯瞰的な見方ができ、それによって事件に色々な形で関わった家族たちのそれぞれの事情が浮き彫りにされている。だから人によっては「これは犯罪小説ではなくて家族がテーマである」という意見もある。そして確かに、この小説で描き出されるそれぞれの家族の描写は非常にリアルであり、さまざまな問題を描き出していると思う。
昨日の日記で「なぜ四人は殺されたのか」明確な解答を得られていない、と書いたがそれは小説上でも明確な解答がなされていないということである。現実社会で凶悪犯罪が起こっていろいろな推測が飛ぶけれども結局のところ、「なぜそのような結果になったか」という解答は結局憶測の粋を出ないのと同じように。つまり『理由』を読んで「こういうことだろう」と想像はできてもそれですべてとは言えないし、また解答は1つではないのだろう、ということである。そしてそれだからこそ『理由』は極めて「現実的な」状況を描いた、といえるのではないか。