2002/03/04

警視庁刑事 私の仕事と人生

警視庁刑事―私の仕事と人生
鍬本 実敏
講談社 1999-10


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■鍬本實敏
この文庫は『マークスの山』の隣に並べられていた。つまりはこれは実際に警視庁の刑事だった人の手記というかそういう本で、高村さんなど作家のひとが刑事のことを書くときに話を聞いたとかそういう人らしいのだった。興味があるので、読み始める。最初ちょっと読んで、先に高村薫さんとか宮部みゆきさんとかが文庫化に寄せて書いている文に目を通した。『マークス』の合田刑事を「まだまだ青い」と評した、という鍬本さん。か、かっこいい……!

予想していたようなスリリングな、とか猟奇的な、とかセンセーショナルな、とかいうのとは違ったんですけど。刑事の仕事も、そりゃあ高村さんとかが書いてある方が小説だけに、"おもしろく"書いてあるんですけど。

――例えばこの本は鍬本さんと、インタビューしている人がいて、その人に話している、というスタイルで書かれてあるんですけど(口述筆記とは書いてないのでどうなんだろう?)、まず文体が「~なんですよ」といった丁寧なものなんですよね。それがまず、拍子抜けで。刑事といったらビシビシに硬派な文章を予想していたので。これは、内容がカタイから、わざとソフトになるように、こういうふうにしてあるんじゃないかな、と。実際に鍬本さんがかかわった事件について書いてあるんですが、そこから伝わってくるのはミステリなんかで味わうものとはやっぱり違う。事件そのものというよりも、それを見る、調べる、鍬本さんの考え方とか思いとかが一番伝わってくる。

ちなみにこの方は大変キレ者で、優秀な方だったそうで、「警視庁のコンピュータ」と呼ばれるほどの記憶力の持ち主だったそうなんです。そういう硬質なイメージと、実際の文章からにじみ出る鍬本さんの視点の鋭さと同居している人間へのあたたかな気持ちがあいまって、ふ~む、としみじみしてしまうと云うか。

漠然と、「刑事」というものに対して抱いていたイメージを、ふわふわと壊されていく感じがする1冊でした。うまく云えませんけど。ドラマチックなイメージもあるけれど、現場の方にとっちゃあ、それが日々であり、対するのは「事件」ではなくて「人間」なんですよね結局は。そこらへんが、私なんかはかなりミーハーに捉えていたんだな、と思ったんでありました。

ちなみに文庫化に寄せて書かれた4人の方の鍬本さんの印象、といったものが人によって微妙に違って、それもまた興味深いです。